引退請負人、ドン・フライ

ゴジラ FINAL WARS

ゴジラ FINAL WARS スペシャル・エディション [DVD]

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■ストーリー
地球は最大の危機を迎えた!
X星人は世界各地に怪獣を放出。その数はとても地球防衛軍が相手に出来る量ではなかった。地球防衛軍エスパーによって構成されたエリート部隊が存在するが、それもX星人によって殲滅。もはや地球が占領されるのは時間の問題かと思われたが、X星人はたった二つ、計算外の脅威を見逃していたのだ。
それはゴジラと…ドン・フライ

 プロレスマニアじゃなくても、その名を知らぬものはいない、プロレス界の重鎮、アントニオ猪木。その引退試合ドン・フライが勤めたと聞いたとき、えっ、と思ったプロレスファンは少なくなかったでしょう。ドン・フライ総合格闘技の大物とはいえ、プライドが全盛期を迎えるのはまだ先の話。三銃士ら次世代の大物でも、馬場、天龍、前田、ホーガンら外部の大物でもありません。歴史を作ってきた大物の引退試合としてはインパクトが弱すぎです。
 そして、今回50年の歴史を積んできた東宝、いや日本を代表する怪獣、ゴジラが引退することになりました。アントニオ猪木に次いで、ゴジラの引退にもドン・フライは関わることになったのです。
 そして本作を見た観客は誰しもが思うでしょう。「アントニオ猪木は間違っていなかった」と!
 この映画でドン・フライは輝きまくってます。いや、ホントに。松岡昌宏がトップに名前が挙がっているクレジットに騙されてはダメです。松岡演じる尾崎は、友情とか、力を持つものの責任とか、それなりにテーマをもってますが、全部おざなりでした。序盤は確かに松岡がダラダラとドラマを展開させており、ドン・フライは大して存在感もない脇役に過ぎませんでした。しかし、地球防衛軍が徐々にX星人に乗っ取られていく際、松岡が「心強い味方がいる!」といって、華々しくドン・フライが紹介されてから、映画の調子が狂ってきます。X星人達の前にメンチをきる地球防衛軍たち、といったシーンでなぜか中心にドン・フライが立っていたり、X星人のリーダーと問答するのがドン・フライであったり、地球を救う無茶な作戦*1を提示するのもドン・フライであったり、本来は主人公がやるべきおいしいシーンをことごとくドン・フライが持っていくようになるのです。
 
「かならず生きて帰ってきて!」と叫ぶヒロイン。
叫ぶ相手は主人公ではなく、やっぱりドン・フライなのです。
 そして、ここまでくれば誰もが気づきます。これはドン・フライ映画なのだと。
 
 人類最後の戦闘艦、「轟天号」(ネーミングセンス最高)。ここでドン・フライX星人のリーダーに対して啖呵を吐きます。確かこんな感じ→「お前達にもかなわないものが二つある。それはこの私と(←ここ重要)、ゴジラだ!」 世界広しといえども、怪獣と宇宙人に対して人間を同じレベルで語ってしまうのはこの映画くらいでしょう。ゴジラ並みに強い人間なんてカッコよすぎですよ。このセリフでドン・フライゴジラは同格に位置してしまったのです。
 この時点で僕みたいに、ゴジラよりもドン・フライにばかり注目するようになったら、多分この映画はすごく楽しめたんでしょう。「冒頭でドン・フライはミサイルでゴジラ沈めてるので、実はドン・フライゴジラだったと気づかされたときは、もうあいた口がふさがりませんでしたよ」。律儀にゴジラに注目していたら、数々の怪獣が秒殺されていくばかりですから、ちょっと不満が残ったかもしれませんね。あと監督はキャスティングみる限り、生粋の格闘技オタなんですが、アクションが大して面白くないのが残念です*2ガンカタマトリックスを中途半端にパクった人間のアクションは、内容も中途半端でしたが、怪獣戦はゴジラの一方的な展開でまだスッキリしますよ。本作オリジナルの「モンスターX」(なんてプロレス的ネーミング!)戦はなかなか迫力あってよかったですね。復興不可能なほど東京を崩壊させてるのは気持ちがいいです。怪獣は世界にばら撒かれてますから下手すると『ID4』よりよっぽど世界が壊滅しているかもしれません。怪獣軍団にはハリウッド版GODZILLAも参戦してます。一匹だけフルCGで違和感バリバリだからすぐわかりますよ。でも、怪獣の数が多いだけに戦闘が次々とあっさり進んでいくのでフリークは物足りなさが残るんでしょう。
 確かにこの映画、ストーリーもアクションも限りなく大味ですが、確実に光ってます。それはドン・フライ船木誠勝らの男気が前面に出ていたり、ゴジラが戦うときには目が燃えていたりといった闘魂が全編に貫き通っていたからでしょう。アントニオ猪木から闘魂が伝わったドン・フライゴジラにおいて眠れる闘魂を呼び覚ますことに成功したのです。
 
 
 
 
…プロレスの闘魂が伝わってしまったゴジラですが、レスラーみたいに引退撤回はしなくていいかもです。

*1:大抵は主人公の男気を演出するため多少の勇気が必要とされるリスキーな作戦が提唱されますが、この映画では勇気を通り越して、無謀を軽くまたいで夢物語のような作戦が提唱されます。この映画のノリを示す象徴的なシーンですね。

*2:サブミッションがひそかに多用されてます。ゴジラのマウントは驚愕