インディーゾンビの血脈はドイツに受け継がれた!?

新ゾンビ

■ストーリー
人間の誕生やサタン追放よりもずっと昔、プレミュトスという邪神がいました。それはさておき、中世から現代まで悪魔の化身っぽい人がいたようです。それはさておき、近代には悪魔の書物を手にして、不老不死の秘術を開発した農夫がいたようです。
しかし、そうしたことはどうでもよくて、とにかく現代にゾンビが大量発生してなんかヤバいようです。

 名作というものは模倣される運命にあります。例えばロメロの『ナイト・オブ・ザ・リブングデッド』。頭部弱点、食人、低い知能といった特徴を持つ、いわゆるモダン・ゾンビといわれるゾンビたちは、ロメロ以降大量に発生しました。例えば『マトリックス』。この作品以降、やたらとマトリックスを意識したアクションやファッションが映画に多く登場してきたことに気づいたファンは多いはずです。
 名作と同じ魅力を付随させれば売れるという商業的意図もあるでしょうが、作品の印象が強すぎて頭から離れないというという作り手からの理由もあるでしょう。
 僕も『ブレインデッド』以降、軽い無感動症候群に陥りました。あまりにも『ブレインデッド』の印象が強すぎて、他にぶっ飛んだ映画を観ても『ブレインデッド』のときのように大喜びできないのです。もしくは鑑賞中に『ブレインデッド』の記憶が呼び覚まされ、ついつい比較してしまっては、『ブレインデッド』に及ばないことが判明し、がっかりしたものでした。
 ぶっ飛んだゾンビ映画というと、必ず『ブレインデッド』が現れ、思考の邪魔をする。おそらく、そういった症状から作り出されたのが本作、オラフ・イッテンバッハ監督作『新ゾンビ』なのでしょう。ポスト『ブレインデッド』の中では数少ないエネルギーに満ち溢れたゾンビ映画になってます。
 とにかくラスト40分間の壮絶極まりないゾンビ戦が見もの。銃器オタクのウォルター邸にはいつゾンビに襲われても大丈夫なように、実戦でつかえる重火器が山のように積んであります(ドイツでは所持禁止)。ハンドガン、ショットガン、マシンガン、チェーンソーに戦車(!?)となんでもあり。アイデアの限り、これでもかとゾンビギミックを詰め込んだ『ブレインデッド』に比べれば想像力が貧困な内容であることは否めませんが、破壊のバリエーションに特化した本作の姿勢は悪くはないです。
 最終決戦地の納屋に何十匹もゾンビの大群が突然押し寄せるのは明らかに不自然なのですが、この映画、つくりとしては本当に最低の部類に属するのでクライマックスまでには、おかしい演出に完全に麻痺してます。悪魔の話ですが、ナレーションだらけのわりには説明が全然体系だっていなくて、サッパリわからない。主要人物がどんどん死んでいくので、誰が主人公でどう物語を追っていいのかも全然わかりません*1。無秩序に現在と過去のエピソードが前後するので話の流れも支離滅裂で、なおかつダルイです。
 これも『ブレインデッド』を意識したんでしょうが、雰囲気は、ややコミカルなんです。しかし、『ブレインデッド』のように暴走型ではなく、ネタか真面目な演出かわからないギリギリの境界線をいく非常にシュールな空気が漂っています。
 例えば、自転車で知り合いの帽子をとりあげるイタズラをした人が突然バスに吹っ飛ばされ、あっさりひき逃げされます。これ、物語の流れと全く関係なく、たぶんこれからも関係はないシーンなんだろうなと思ったら、本当に物語とつながることはありませんでした。びっくり。こんなの、なかなか狙ってできるものではないですよ。
 不老不死の謎の薬がゾンビ発生にかかわりがあるように見せておきながら、全然関係ないところでゾンビが発生してしまったのも、予想を裏切られて唖然としました。一体脚本家の思考回路はどうなっているのか。
 本当の見所はイカれたクライマックスのゾンビバトルですが、演出力の欠片もない前半、中盤もなかなか味があって飽きません。侮れないです。「なんだこりゃ、変なの」とか思いながら気楽に観ましょう。怒ったら負けのような映画です。

*1:イッテンバッハ監督は最も主人公っぽい少年役で出演…