ジャッキーもジェット・リーもいなくても、アジアにはトニー・ジャーがいる!

マッハ!!!!!!!!

 CGなし、ワイヤーなし、スタントなし、早回しなしを売り文句に、ハリウッドだけでなく、偉大なる香港アクションの巨人達にも喧嘩を売ってしまった本作ですが、看板にたがわぬ素晴らしいアクションでした。トニー・ジャーの運動神経と安定感が全て。十分魅せてくれた充実の108分でした。
 ムエタイの映画ですが、映画の構成は香港映画を踏襲した感じです。特にジャッキー映画。ジャッキー映画もなるべく生身の戦いにこだわってる感じがありますよね。ワイヤーもスタントも使わないし。早回しも多用しません。せまっくるしい市場戦は明らかにジャッキーへのオマージュです。ジャッキーは狭い市街をピョンピョン飛び回るのが好きですよね。いつぞやは自転車で飛びまわってた気がします。また、蹴り入ると綺麗にほこりが飛びます。わかりやすいストーリー*1に背筋の震える驚愕のアクションと見所も一緒。このノリだとエンディングでNG集流れたりするのかなと思ったら、ホントに流れてきたのでビックリしました。
 この映画の凄いところは香港映画のように目の肥えた観客や経験豊富な大スターがいないというところなんですね。もちろん、これまでもタイにアクション映画はあったでしょうが、香港と比べると下積みが圧倒的に足りません。香港アクションを切り開いたブルース・リーの映画を見ればわかると思いますが、素晴らしい武術に肉体と本気が伝わるんですが「魅せる」という点においてジャッキーやジェット・リーよりも洗練されてないところというのはあると思うんですよ。ところがですよ、香港映画を踏襲しているとはいえ、ムエタイ映画のパイオニアでここまで完成度の高いアクションが見られるなんて夢にも思ってなかったわけですよ。映画というのは大人数が関わる仕事だけに各人のノウハウが熟練したものになるまで、それなりに業界自体が経験をつんでいかなくてはならないものだと思うんです。しかし、タイのスタッフはやってのけた。しかも一本で様々なアクションを盛り込んだ近年稀に見る傑作をだしてしまった。これはすごいことだと思いませんか。
 別に生身の戦いにこだわる必要はなかった気がしますが、個々のアクションの力の入れ具合はすさまじい。良作の低予算映画にありがちですが、お金の使いどころを間違ってません。市街地は仕掛がいっぱいでセットがゴチャゴチャしてるし、カーチェイスではガンガンに車を潰します。異種格闘技戦でもでかいセット一つ潰すだけでかなりお金がかかったと思います。
 戦いもタイマンから大人数戦、追いかけっことバラエティに富んでます。そして個々のアクション、トニー・ジャーの運動神経に感動しましょう。720度回転なんて、きょうびのプロレスでも見られませんよ。他にも物理を無視したジャンプを幾度か炸裂。トニー・ジャーの世界では地球が回っていないんです。まさに「猪木が笑えば世界が笑う」状態。ワイヤーなしをアピールするにはそれなりの理由があるのです。ちょっと格闘技や体操を親しんでればトニー・ジャーのアクションが恐ろしいことはわかるはず。脚に鬼が宿ってますよ。ほとんど間を作らずに回転ジャンプ、回転キックを繰り出す脚はきっと乳酸が発生しないつくりをしてるんでしょう。
 ちなみに仏教あまり関係ありませんでしたねぇ。主人公の戦う理由は神頼みということですか。「悪役が大仏の頭だけ集める理由がわけわかりません。麻薬よりもお金になるんでしょうか。首を切ったり、海水に漬けたりと、商売道具を高く売るつもりは毛頭ないようです」。
 僕らを戦慄させてくれるのはトニー・ジャーの体張ったアクションが本気で限界に挑んでいるためでしょう。「これでタイのエンターテイメントの真髄をみしてやるけん!」という意気込みがムンムン伝わってくる娯楽大作です。必見!
 
…悪役サミンは、なぜかムエタイの試合でデスバレーボム、クローズライン炸裂。やけにプロレスラー臭いファイトスタイルでしたね。次回作『トム・ヤン・クン』でトニー・ジャーはついに"ポゴ街の悪人"ネイサン・ジョーンズ(元WWE)と激突です。タイの人はプロレスも大好きなのね。
…特典映像の中で必見なのは「来日イベント映像」。撮り直しなし、編集無しの一発本番で型と格闘をやってのけます。映画と遜色ないキレのない動きに度肝を抜かれます。ムエタイ恐るべし。

*1:主人公の村の貧乏っぷりは必見。井戸の枯れっぷりはひどい