ホラーは本当は面白いんです

アメリカン・ナイトメア [DVD]

アメリカン・ナイトメア [DVD]

アメリカン・ナイトメア

■ストーリー
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のジョージ・A・ロメロ
同じくロメロの『ゾンビ』では特殊メイクを担当したトム・サヴィーニ
鮮血の美学』のウェス・クレイブン*1
悪魔のいけにえ』のトビー・フーパー
シーバース』のデビッド・クローネンバーグ*2
『ハロウィン』のジョン・カーペンター
1960年代後半から70年代までに生まれたホラーの名作と巨匠たち。なぜこれらの作品がいいようもないエネルギーに満ちていて衝撃を与えるのか。単なるビックリホラーとは違い、心の奥深くから潜在的な恐怖感がざわざわと沸き起こるのはなぜか。当時の社会情勢と照らし合わせながら巨匠自身の口で語られるドキュメンタリー。

 非常に秀逸なドキュメンタリーでした。抽象的な映画の解釈をあまり赤裸々に語ってほしくないという批判もあるでしょうが、映画の作られた背景や監督の考えが知りたい人は満足できる一本でしょう。そしてホラーマニアは必見ですね。
 とりあげられてる映画は多分にネタバレが含まれてるので、できれば全て観た後にこの作品に挑んでほしいのですが、上記の半分しか見てないのに本作に挑んでしまった僕はダメダメですね。でもこの作品のおかげで『鮮血の美学』も『シーバース』もみようと思いましたよ。観てない作品の魅力を掘り出してくれる効果もあるでしょう(でも、やっぱりネタバレしないうちにオリジナルを観ておくのがベストなんでしょうが)。
 公民権運動とベトナム戦争、そして政府への不安が反映されたといわれてもピンと来なかった『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』ですが、本作では当時のニュース映像が随所に流れてくるので虚構から虚構と現実の狭間に上手く誘導してくれます。
 本作の最大の魅力はここだと思うんですよ。ホラーに最も元気があって傑作も集中している70年代ですが、30年もたつといくら名作といわれても作品にのれない部分というのは出てくると思うんですね。しかし、映像の力というのは偉大なもので、当時のニュース映像や音声をかぶせながら映画を語られると非常に臨場感が出てくるんです。少なくとも表面的には『ナイト〜』を観た観客が思い浮かべる迷走するアメリカ社会というのがわかるわけです。『ゾンビ』でも消費主義がぼんやり抱える虚無と不安を見事に捉えていることがロメロの解説から伝わってきますが、その後の陽気な70年代のスーパーの映像と『ゾンビ』の映像の組み合わせが非常に効果的に作用しているように思えます。
 既存の社会秩序に不信を抱き、映画において革命を試みたアメリカン・ニューシネマ。この先駆けとなったのは67年の『俺達に明日はない』であり、69年の『イージー・ライダー』であるわけですが、68年の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』もこれらの作品に負けないくらい先駆的であり、影響力はあったわけです。こういうこと考えると、ホラーも、もうちょっと見直されていいんじゃないかと思うわけですよ。
 ベトナム戦争に参加し、カメラを通して死と向かい続けたトム・サヴィーニの言葉は非常に生々しくて興味深いです。特殊メイクの人なので、死を「眺めた」じゃなくて「観察した」なんですよね。生の戦争を体験しているだけに、死の狂気と恐怖を映像で表現することに限界があるとの言は説得力があります。ベトナムを生で体験しているだけに本当の殺し合いの怖さを知っているんです。それでも死にまつわる特殊メイクに執着するのは不思議ですね。どおりでサヴィーニのメイクに力強さがあるわけです。「俺はセックスマシーンだ」とかいって股間から小型マシンガンをぶっ放したり、マチェーテ振り回して楽しそうにゾンビを狩ってるバカ親父じゃないということですよ。
 僕は人体の博覧会とか、スナッフムービーとか見れない人で、本物を見るなんてとんでもない。恐ろしいし、罪深いとか思ってしまうんです。本ドキュメンタリーで誰かが「ホラーは怖くするのはいいけど、怖くしすぎるのはダメだ」といってました。死という怖さを現実から現実と虚構の狭間に持ち込むホラーは僕に合っていたんでしょう。そしてこのドキュメンタリーでとりあげられた作品に力強さがあるのは、社会と結びついていたため、時としてあまりにも虚構に偏りがちなホラーが現実味を帯びていたからでしょう。リアリティというのは、ただそれだけで魅力的であり、力強さを秘めてます。なぜだかは知りませんが。
 僕がホラーに惹きつけられるのは現実の力強さを持ちつつ、虚構の自由と楽しさも併せ持っているところにあるんでしょう。プロレスが好きになると現実と虚構の狭間というのは結構重要な要素になってきます。どちらかに偏らず、中間でふわふわしてるのが心地よいんですよね。
 鑑賞後早くも記憶に残ってない『鮮血の美学』編と解説に特に面白さを見出せなかった『悪魔のいけにえ』編、なんかお茶を濁された感のある『ハロウィン』編はすっ飛ばして、『シーバース』編はまたゾンビ・サーガとは違った面白さがありましたね。
 クローネンバーグの解説が面白い。『シーバース』は女性による性の革命が背景にあるのですが、映画でクローネンバーグが加えたのは生々しい肉体感覚なんですね。なんか精神と肉体が分離される傾向にあるみたいだけど、元々一緒のものなんだから理性的な思想、運動においても肉体を見失うのはよくないと。で、今も昔もクローネンバーグの映画はうねうねする肉体に溢れているわけですが、肉感をもって何かを語れる人なんてクローネンバーグぐらいのものでしょう。
 とにかくこの作品、インタビューの興味深さに加えて当時の映像を加えた映像編集が秀逸で半端なホラーマニアでも十二分に楽しめる内容になってました。ほうぼうで叩かれて自信を失ったホラーファンはこれを見ると間違いなく元気が出ます。
 
ジョン・ランディス*3のはしゃぎっぷりは目を引きますね。映画に対する全てのコメントが限りなくファン目線です。

*1:エルム街の悪夢』『スクリーム』のほうが有名

*2:ビデオドローム』のほうが有名

*3:ブルース・ブラザーズ』『サボテン・ブラザーズ』『星の王子様ニューヨークへ行く』『ビバリーヒルズ・コップ』とコメディが目立ちますが、『狼男アメリカン』の監督でもあります