殺人魚 フライング・キラー(1981)

◆ストーリー
 ベトナムの殺人兵器であった空飛ぶピアニアがカリブ海に出現。怪物ピラニアがいるだのいないだの、ゴタゴタやってるうちに、浮かれた観光客や、セクシーなお姉ちゃん達が次々と犠牲者になっていきます。
 恐るべき殺傷力と、数を誇る殺人魚に立ち向かうのは美人ダイビング・ガイドと、彼女の不倫相手、そして彼女のダンナは海上警備隊ですが、行方不明になった息子を追いかけます。息子はクルージングの途中で出会った可愛い子とよろしくやってます。このパターンだと、息子死にそうだけど、がんばれダンナ!嫁が浮気しててもめげるなよ!

 『ジョーズ』の亜流作品の中でも大傑作であった『ピラニア』。そして、その続編であるのが本作『殺人魚 フライング・キラー』です。正直、ピラニアと間違えて借りてしまったんだけど、「なんでこれが大傑作なんだー」と頭抱えるくらいB級臭さ漂う映画でした。大傑作という色眼鏡かけなけりゃ、それなりに面白い可愛い映画です*1
 ただ、無意味に素っ裸で色気を振りまいている女強盗団に、イケメンに言い寄られて簡単に浮気をする主人公、主人公の節操のなさに怒り心頭だが、バイト先で女の子にすぐに色目を使うなど、人のことは全然言えない息子、ナンパしたいだけの医者など、登場人物が全体的に軽薄で、全然共感できない。鬼のように強い殺人魚ですが、肝心な場面で都合よく出現しないなど、緊張感に欠けるところもあります。ポップコーンほおばりながら、映画につっこむのが気楽でこの作品には合ってるかもしれません。

*1:あと、ジェームズ・キャメロンの初監督作と捉えるのもバツ。あんまり関わってないらしいです。

世界最速のインディアン(2005)

世界最速のインディアン

◆ストーリー
 ニュージーランドのインバカーギルには凄い男がいた。バート・マンロー63歳(アンソニー・ホプキンス)。スピードの神にとりつかれた彼は、流線型オートバイ「インディアン・スカウト」で世界最速を目指していた。毎年アメリカはボンヌフィル塩平原で開催されるレースで世界記録に挑戦するのだ。
 しかし、そこには幾多の障害が待ち受けている。まず、彼は年老いており、狭心症に悩まされていた。バイクで高速でかっ飛ばすには不安が残る。次に、アメリ渡航までのお金が全然足りていなかった。バートはお金の面では半ばあきらめ気味だったが、周囲の助けにより、なんとかレースに向かうことはできそうになった。
 単身でアメリカに向かったバートは、あまりに素っ気無い街の人の態度に戸惑ったり、アメリカのバカ高い物価に困ったり、様々なカルチャーギャップに苦しむが、スピードへの熱意と、人の良さで、ここでもいろんな人の助けのおかげで困難を乗り越えていく。
 実はロードムービーです。

 映画で見る限りのバートさんの生き方はとてもシンプルです。ただひたすら世界最速を目指すのみ。アスリートやスーパービジネスマンなんかの生き方がときどき凄いシンプルに見えて、目的がなくてぶらぶらしてたり、目的があっても、寄り道したり立ち止まったりしてるボクには眩しい生き方であるわけですが、目標達成のために無駄を省いたスマートな生活を達成できる人というのはきっと少なくて、だからこそ神々しかったり、下手をすると人間味がなくなったりするわけです。
 バート・マンローは63歳。ここまでボンヌフィルに挑戦しなかったのは、寄り道もしたんだろうし、立ち止まったりもしたんだろうけど、彼が振り返らず、ひたむきにレースを目指すのは、「レースにでるために借金をした」という、もう取り返しの聞かない一線をこえてしまったことと、おじいちゃんになっちゃって、そろそろタイムリミットが近づきつつあるという危機感があるのでしょう。この人の半分はやさしさでできてますが、残り半分くらいはヤケクソでできてるんじゃないでしょうか。「リスクがないと成功できない」なんて偉そうなこといってますが、嘘です。
 だからなんだということもないですが、悲愴なストイックさもなく、肩の力の抜けたバートの旅路はとても和みます。63歳にしてはあまりにも大変そうに車のドアを開けます*1が、アンソニー・ホプキンズの演じる可愛いおじいちゃんは、なんだか応援したくなる説得力を十分に持ち合わせてます。ときどき炸裂するつまらないジョークさえ、いとおしく思えるなんてなかなかないですよ!
 淡々としたテンションで物語が進みますが、レースシーンまでの緊張感は高いです。塩だらけで真っ白なボンヌヴィルはこの世の土地とは思えないくらい神秘的だし、マシンの不調や、バートの体調から、文字通り命削るように駆け抜けるレースシーンは、息をのみました。

*1:酒もタバコもやらないから、健康なんだ!と胸をはってますが、いうほど健康じゃない。ただ、絶倫です。

片腕カンフー対空飛ぶギロチン(1975)

片腕カンフー対空飛ぶギロチン [DVD]

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■ストーリー
 前作『片腕ドラゴン』で清朝の誇る凄腕の刺客が二人倒された。倒したのは片腕ドラゴン(ジミー・ウォング)。片腕を失いながらも拳法の達人を倒すまでに強くなった片腕ドラゴンは道場を開いて師父として落ち着いていた。
 そんな片腕ドラゴンを許さないのが、刺客の師匠にして、清朝最強の暗殺者。空飛ぶギロチンを操る男、封神(クム・カン)であった。
 ところで、中国では天下一武道会が開催されており、片腕ドラゴンも見学に出向いていた。空飛ぶギロチンも片腕ドラゴンが出場していないか忍び込んでいる。ここで繰り広げられたのは、ムエタイ、ヨガ、棒使い、三節昆、トンファー、モンゴル相撲、猿拳、鶴拳といった、様々な拳法が集うドリームなイベントだった。途中でギロチンがぶち壊すんだけどね。空気読め!

 昔、ストリートファイター2が映画化されましたよね。あれは残念な映画でしたね。何が残念って、波動拳がでないんですよ!ダルシムの手が伸びないんですよ!エドモンド本田が飛ばないんですよ!観客が何を求めてるのか、わかってないんですねえ。稚拙なCGでもいいからサマーソルトみたかったよ!
 この点、この映画はえらいですよ。ムエタイは試合前になぜかムエタイな音楽が流れるし、ヨガ使いはきちんと手が伸びるんです。そうだよ、これが見たかったんだよ!これは映画として、ものすごく正しい!拳法の達人は水の上を歩き、重力だって無視できる*1!娯楽映画とはこうでなくては。ギロチンも片っ端から首を借りまくります。片腕と見るや、あっという間に首を切ってしまうせっかちさんで、「片腕は皆殺しだ!」と大陸的な視点で暴れまわります。素晴らしい。
 映画のほとんどが格闘シーンで占められており、どのキャラクターも存分に暴れまわっている素晴らしい内容です。全編が見せ場ってこういうことを言うんでしょうね。ヨガの手が伸びたときは本当に感動しました。まさか本当に伸びるとは思わなかった。しかし、なんでヨガ=体が伸びるというイメージになるのだろうか。みんながインド人に抱くイメージって同じなんだね!
 主人公は笑ってしまうぐらい存在感がないんですが、クライマックスでの卑怯っぷりは注目に値します。この人、基本的に拳法じゃなくて罠で勝つんですね。ムエタイとの戦いなんて、ただの拷問だよ!
 娯楽に徹した格闘映画はかくあるべし!ガチとかヤオとか、ヌルヌルするとかしないとか、世知辛い世の中ですが、これをみてスッキリしましょうよ。

*1:今や、格闘映画のグローバルスタンダード

麻雀放浪記(1984)

麻雀放浪記 [DVD]

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◆ストーリー
 終戦直後、東京。学校に行かず、ぶらぶらしていた坊や哲(真田広之)は、戦前、賭博を教えてもらった傷痍軍人の上州虎(名古屋章)につれられて、チンチロリンに向かう。坊や哲は、そこにいた物々しい雰囲気の男にあわせて賭けを張り大勝ちする。男はドサ健(鹿賀丈史)と呼ばれる賭博打ちで、惹かれるところもあり、共に賭場を歩き回ることもあったが、ドサ健の勝負と金に対するえげつなさに引いてしまい、坊や哲はドサ健から距離を置くようになる。
 次に坊や哲が出会った賭博打ちは出目徳(高品格)と呼ばれる老人だった。背中が丸くなっており、小太りで、表情もぼんやりとしたパッとしない男だが、雀荘で勝ちに勝ちまくる。坊や哲も太刀打ちできなかったが、出目徳は坊や哲の腕を見込んで二人組みのイカサマ麻雀に誘ってくる。高い技術の要求されるイカサマであったが、それだけに勝ちまくり、二人は雀荘を荒らしまわった。
 ここで出目徳は勝負をかける。いま、上野で最も羽振りを利かせているカリスマ雀師を叩き潰し、大金をせしめようというわけだ。この上野のカリスマ雀師というのが、あのドサ健であった。彼もまた、この世界でのし上がってきていたのだ。
 戦前の大物雀師、出目徳と戦後のカリスマ雀師、ドサ健の対決。
 そして、この勝負は雀師の破滅的で刹那的な生き様を紡ぐ物語の幕開けでもあった。

 これも角川映画イラストレーターの和田誠監督で、原作は阿佐田哲也による同名小説の青春編。漫画化もされましたね。というか、マンガのほうを先に読んでたので、てっきり哲也が妖怪じみた雀師たちをバッタバッタなぎ倒す映画かと思ったら、哲也はただの狂言回しでした。
 前半こそ、一癖も二癖もあるドサ健や出目徳には翻弄され、クラブのママ(加賀まりこ!)にはぞっこん惚れちゃって自分を見失うなど、坊や哲の青春物語の要素もありましたが、ドサ健と出目徳が戦う後半からは、完全にドサ健の物語になってしまってます。賭け事に取り付かれ、文字通り命がけで勝負に挑もうとするドサ健の生き様は全く共感できないのに、すげー魅力的。明らかに常人の倫理や道理を踏み外してるんだけど、筋が通ってるし、映画ではきちんと説明されてる*1
 勝負をする大金を集めるために、文字通り女房(まゆみ:大竹しのぶ)を質に入れるような最低男ドサ健、そこまで非道な扱いを受けてもドサ健にほれ込み離れられないまゆみ。この二人の明るい未来が見えません的ブルースがカッコいいんですわ。
 しかし、この手の物語って男くさいですね。女子供はでてこないし、女は男に都合のいい存在だったりします。男のわがままが全部ふりかかってくるまゆみは悲惨な役どころなんだけど、これをひたすらけなげで可憐な存在として演じた大竹しのぶはやっぱり凄いなあ。でもMVPは高品格*2

*1:だが、舞台が戦後直後の東京ということで、納得させられてるところは大きいと思う。僕にとって昭和初期はロマンチックの宝庫というイメージであり、監督がこの映画をモノクロにしたのもきっと物語を現実離れさせる意図があったはずだ。

*2:こんなに配役のハマリまくった映画はもうできないでしょう。昭和初期のギラギラ感と胡散臭さを表現できる人はだんだん少なくなってる。

ザ・クラフト(1996)

◆ストーリー
 お父さんの仕事の都合で転向することになったサラ(ロビン・タニー)。新しい環境で上手くやっていけるか不安だったけど、可愛いサラには早速男がよってくる。アメフト部のクリス(スキート・ウールリッチ)*1だ。だけど、クリスはセックスを断っただけで、翌日酷いウワサを学校中に流す最低野郎だった。「クスクス、あの子、出会った男とすぐ寝るんだって、クスクス」「おまけに下手くそなんだって、プププ」
 なんてやつ、最低!
 しかし、そんなサラにも友達は出来る。学校でつまはじきにされてるゴスっ子三人組だ。三人とも個性的なので名前を出しておくと、リーダー格のナンシーにリアル・ゴスのフェイルーザ・バルク、背中の火傷にコンプレックスを持つボニーにネーヴ・キャンベル*2、ほとんど黒人のいないロスで差別されまくってる黒人少女ローチェルにレイチェル・トゥルー。このとき30歳。若いものには負けんぜ、イェー!
 この三人組、個性の強すぎるゴスを身に纏い、つっぱってるだけかと思ったら、毎日毎日熱心に黒魔術の儀式を行うハードコア・ゴスだった!
 そして、サラと三人組が本当に黒魔術の力を手に入れたとき、虐げられたものの憎しみは学園のヒエラルキーをも覆す!

 結構珍しいゴスをメインに持ってきた学園映画。彼らは黒髪に黒服をまとい、他のコミュニティを威嚇する学園のはぐれ者。コミュニティではぐれてしまったら、逆に目立つコスチュームで自分を守るのが個性を尊重するアメリカっぽいですね。
 これ、皮肉にも『ミーン・ガールズ』に似てます。『ミーン・ガールズ』で、転校生は学園最上ヒエラルキーのセレブ三人組に歓迎されるのに対し、『ザ・クラフト』は学園最低ヒエラルキーのゴスに属することになるのです。どちらもグループは同じ服装で固めているところとか、リーダーがカリスマチックな影響力をもっている(あくまでグループ内)ところとか、リーダーの元彼がヒロインにほれて、リーダーが嫉妬するとことか、共通点多い。本当に多い。
 本作は学園ヒエラルキーの上位にいる連中にいじめられ、バカにされてたゴスっ子たちが、黒魔術の力を手に入れたことで増長し、復讐、いじめ、内ゲバをやらかすことで、ヒエラルキーの上位にいる子も下位にいる子も根底は大して変わらないことを喝破した点では気持ちのいい作品です。
 とにかくリーダー格であるナンシーの描き方が秀逸*3。オヤジは働かず、家というか、トレイラーハウスで酒ばかり飲んでて、両親が毎日喧嘩してる絵に描いたようなホワイト・トラッシュ。寝ているところで顔に雨漏りがポタポタ落ちてくるのはやりすぎだけど、そんな彼女が現状打開に強いモチベーションを持ってるのは凄い説得力がある。ゴスっ子4人が集まって、魔術の儀式をやってるシーンがあるんだけど、そこで四人それぞれが自分の願いを魔術の力で叶えようとするのね。それぞれ自分の願いをいうんだけど、ナンシーだけは口には出さない。一人だけ願い事を胸のうちにしまっていて、心で唱えているのだ!で、その願い事というのが、なんとお金持ちになること。別に口に出しても全然恥ずかしくないよくある願い事なんだけど、ナンシーは言わない。彼女は本気なのだ!
 ナンシーは家でヒステリーをおこした際、魔術が開花し、そのショックで親父が死んでしまう。で、その生命保険でナンシーは金持ちになってしまいます。これにナンシーは悲しむどころか大喜び。ここから物語の中での魔術の要素がいよいよ表面に出てくるのです。 
 四人が魔術を手に入れる過程はゆっくりと描かれます。いきなりポルターガイストが起きたり、脳ミソをスキャナーして頭をふっ飛ばしたりはしません。徐々にエスカレートしていくナンシーの欲望と共に膨れ上がっていく。この辺のテンポは丁寧に作られてて、うなります。盛り上がります。
 クライマックスはすごいですよ。『フェノミナ』もビックリの蟲地獄です。サミュエル・L・ジャクソンも腰を抜かすヘビ地獄です。やっぱり魔術はこうでないと!いやー、楽しかった。 

*1:見覚えあると思ったら、『スクリーム』に出てた。

*2:脇役で太ってるけど主人公より可愛いなあと思ったら、『スクリーム』で主役張ってた。

*3:これに対して、主人公は全然共感できない。イケメンに終始追っかけまわされてるし、なにより登校初日、フランス語の授業でみんなが適当に出鱈目を喋っている中、ひとりでコソコソ正確なフランス語をつぶやいて先生を感心させる。おまけに四人の中でも生まれつき能力の高い魔術エリート。キーッ!やなやつ!

ウォーク・ザ・ライン/君に続く道(2005)

カントリー・ミュージックの偉人ジョニー・キャッシュホアキン・フェニックス)。兄の死、父との不仲、恋人とは理解を得られず、成功しても酒、薬、女に溺れる。
そんなドロドロの人生を歩むレジェンドだが、彼の心の支えは憧れの女性歌手ジューン・カーター(リース・ウィザースプーン)。歌手になってから、一緒に仕事をする機会が増えた二人。ジョニーとジューンは一緒の仕事を増やしていき、ジョニーはジューンに惹かれる気持ちが強まる。
しかし、ジョニーをよく知るジューンだけに、恋人にはなれないのだ。

 なんか、最近は「重い人」というイメージのホアキン
 飛行機の中で見たんですが、ちょっと気持ち悪かったのに、ホアキンの重い顔のせいでもっと気分が悪くなった。ハイテンションな役柄が多いリース・ウィザースプーンも今回はダメ男を見つめる静かな役です。この人、役の幅を広げたね。
 これもミュージシャンがどん底から復活しましたってストーリーです。
 周りから助けてもらいながらも、腐り続ける主人公というのは本当に重い。ジョニー・キャッシュは自己嫌悪に陥りながらも、薬依存の生活から抜け出せない。鬱屈と密閉間があります。
 アウトローどん底からカムバックするという王道のストーリーで、カッチリまとまってはいるんですが、ちょっと尺が長すぎたかもしれない。
 ホラーやコメディだと、どの映画も90分ばかりで、ときどき二時間を超える映画観たりすると長さを感じることがあるのよね。

DVDのパッケージはえらいカッコいいなあ

 ゴテゴテの装飾だったポスターは嘘だろう。すごいしっとりした映画でした。
 今年もアカデミー賞レースが注目される季節になってきましたが、今回もスコセッシ&ディカプリオコンビが露骨に狙ってきました。スコセッシ御大の創作意欲を保つため、今年も無冠の方向でお願いしたい。