世界最速のインディアン(2005)
◆ストーリー
ニュージーランドのインバカーギルには凄い男がいた。バート・マンロー63歳(アンソニー・ホプキンス)。スピードの神にとりつかれた彼は、流線型オートバイ「インディアン・スカウト」で世界最速を目指していた。毎年アメリカはボンヌフィル塩平原で開催されるレースで世界記録に挑戦するのだ。
しかし、そこには幾多の障害が待ち受けている。まず、彼は年老いており、狭心症に悩まされていた。バイクで高速でかっ飛ばすには不安が残る。次に、アメリカ渡航までのお金が全然足りていなかった。バートはお金の面では半ばあきらめ気味だったが、周囲の助けにより、なんとかレースに向かうことはできそうになった。
単身でアメリカに向かったバートは、あまりに素っ気無い街の人の態度に戸惑ったり、アメリカのバカ高い物価に困ったり、様々なカルチャーギャップに苦しむが、スピードへの熱意と、人の良さで、ここでもいろんな人の助けのおかげで困難を乗り越えていく。
実はロードムービーです。
映画で見る限りのバートさんの生き方はとてもシンプルです。ただひたすら世界最速を目指すのみ。アスリートやスーパービジネスマンなんかの生き方がときどき凄いシンプルに見えて、目的がなくてぶらぶらしてたり、目的があっても、寄り道したり立ち止まったりしてるボクには眩しい生き方であるわけですが、目標達成のために無駄を省いたスマートな生活を達成できる人というのはきっと少なくて、だからこそ神々しかったり、下手をすると人間味がなくなったりするわけです。
バート・マンローは63歳。ここまでボンヌフィルに挑戦しなかったのは、寄り道もしたんだろうし、立ち止まったりもしたんだろうけど、彼が振り返らず、ひたむきにレースを目指すのは、「レースにでるために借金をした」という、もう取り返しの聞かない一線をこえてしまったことと、おじいちゃんになっちゃって、そろそろタイムリミットが近づきつつあるという危機感があるのでしょう。この人の半分はやさしさでできてますが、残り半分くらいはヤケクソでできてるんじゃないでしょうか。「リスクがないと成功できない」なんて偉そうなこといってますが、嘘です。
だからなんだということもないですが、悲愴なストイックさもなく、肩の力の抜けたバートの旅路はとても和みます。63歳にしてはあまりにも大変そうに車のドアを開けます*1が、アンソニー・ホプキンズの演じる可愛いおじいちゃんは、なんだか応援したくなる説得力を十分に持ち合わせてます。ときどき炸裂するつまらないジョークさえ、いとおしく思えるなんてなかなかないですよ!
淡々としたテンションで物語が進みますが、レースシーンまでの緊張感は高いです。塩だらけで真っ白なボンヌヴィルはこの世の土地とは思えないくらい神秘的だし、マシンの不調や、バートの体調から、文字通り命削るように駆け抜けるレースシーンは、息をのみました。
*1:酒もタバコもやらないから、健康なんだ!と胸をはってますが、いうほど健康じゃない。ただ、絶倫です。