フライト・ナイト(1985)

■ストーリー
 「フライト・ナイト」...それは毎晩放送されるホラー映画放送番組。ホストを務めるのはヴァンパイア映画の(元)大スター、ピーター・ヴィンセント(ロディ・マクドウォール)。主人公のチャーリー(ウィリアム・ラグズデール)はこの映画の大ファンで、ヴァンパイアとピーターが大好きなんだ。そんなチャーリー邸の隣に、あやしい二人組みが越してきた。牙、指輪、棺!そして相次ぐ女性の失踪事件。隣人は吸血鬼に違いないと踏んだチャーリーはおびえて、部屋中を退魔グッズで埋めるなど、追い詰められる。
 チャーリーの心配は杞憂なんだと、安心させるため友人はピーターを招いて、ヴァンパイア・テストを行うことになるが...。

 ヴァンパイア対ヴァンパイア俳優という設定は奇抜ながら、十字架、日光、杭に弱い、鏡に映らないなどなど、ヴァンパイアものの原則にわりと忠実で、羽目を外しすぎない加減がいい。「真面目に変化球を投げている」感覚が、傑作と呼ばれる所以でしょう。
 特殊メイクや演出も本気を感じる迫力があります。さかのぼること1981年、リック・ベイカーが『狼男アメリカン』にて、あの時代にどーやって撮ったんだっていう驚きの変身シーンを演出しましたが*1、これに迫る変身がこの映画でも見られます。結構がんばってますよ。他にも、ヴァンパイアがヒロインを誘惑するシーンが意外にセクシーに撮られてて驚きます。
 コメディ扱いされているけど、いまやかなり消費されている多くのホラー・コメディの傑作群に比べると、フットビ感が足りないし、むしろ大真面目なホラー映画に見える。というか、正直笑いどころがどこかよくわからない。
 コミカルな演出という話であれば、たしかに時代遅れのホラー俳優ピーターを演じたロディ・マクドウォールの演技は素晴らしい*2。往年の主演作にすがって細々と生きている悲哀、本物のヴァンパイアと出会ったら逃げようとするどこまでも普通の人を好演しています。いよいよヴァンパイアと対決する場面では、ほとんどロディの映画になっている。ただのホラー俳優で事件には全く無関係なのに、なぜかズルズル引きずりこまれ、へっぴり腰ながらヴァンパイアに立ち向かうくだりは盛り上がりますね。普通ははまりこまないパズルのピースが上手くはまってしまう過程というのはスリリングなものなのです。
 反面、主人公のチャーリーがヴァンパイアを信じてもらおうと奔走する前半のシーンは月並みでダルいところがあるのですが、つくりのしっかりした良作であることは確かです。B級映画、侮りがたし!

*1:主人公の友人の、ほとんど冗談みたいな過剰な破損メイクも大好き。

*2:ピーター・カッシングクリストファー・リーらはピーター役のオファーを断ったらしい。そりゃそうだ、「本物」だもの。