ムツゴロウの青春期

ムツゴロウの青春記 (文春文庫)

ムツゴロウの青春記 (文春文庫)

 あああ、もっともっと、もーっと若い頃に読んでおけばよかったなってエッセイ。保守的で、権威主義的な日本で、若いうちに恋愛し、バンカラ気風の高校で生徒に負けない活気のある先生と暴れ周り、のびのび育つ畑少年がひたすら痛快。
 いばしば、俺はあれが出来る、これが出来たと自慢話に持ち込んでしまうのもご愛嬌でしょう。今の畑さんも相当に負けず嫌いらしいので、自我の強い高校生時代なんて闘志をビリビリ発していて近づきにくい子だったのかもしれないねぇ。でも、時代が時代だから、まわりがみんな畑さんみたいに前向きな人たちばかりだったのかもしれない。ただ、みんな一生懸命生きているのは伝わってきます。感受性高く、じいさんになっても思い出を鮮明に綴ることの出来る畑さんの才能もあるでしょうが、出会う人物の描写は非常に興味深い。時代の過渡期にいる人の真剣さでしょうかね。大人も子供も大真面目に青春しているみたいです。みんな教養をハナにかけてるところも青臭くていいですねー。。
 一番すきなのは畑少年の父の話。医者になるまで壮絶な苦労をしたのも面白いんだけど、家庭では困った偏屈親父になってしまうところが、とっても人間的でいいな。もっと興味がわくのは、どうみても弟にコンプレックス抱きまくりの兄貴なんだけど、文章からは明らかに距離感が感じられるんだよね。オヤジに陰口を叩いたり、オヤジのいいなりの人生を歩む兄貴を見て、畑少年はもっともっと軽蔑や、哀れみの感情を強く持ったはずなんだけど、オヤジと兄貴の交流をうらやましく思う文章を載せたりと、気遣いすらみせている。人より速い速度で成長し、自律していく畑少年が、オヤジと兄貴の結びつきを強めた側面もあるだろうけど、この辺、文字の裏にあるドラマが気になりますわ。
 幼くして聡明博学、運動にも長じ、様々な活動にも活発。友にも恵まれ、快活で、彼女持ちと、負けず嫌いなところ以外は今ひとつ共感しづらい畑少年。動物オタクになるまでの話はまだ先のことのようです。でも、もう畑少年、大学卒業しそうなんだけどね。