ホテル・ルワンダ(2004)

violent_jef2006-01-30

■背景とストーリー
 ルワンダ宗主国ベルギーはルワンダの民をツチ族フツ族に分け、少数のツチ族に実権を握らせた。独立後、民族紛争が発生。やっと穏健派のフツ族大統領が民族間和平を結ぼうとしていたが...
 1994年ルワンダの首都キガリでは、ベルギーの外資系ホテル「ミル・コリン」の支配人ポール(ドン・チードル)が不穏な社会の動きに不安を募らせていた。彼はフツ族だが、家族や親戚はツチ族だ。ラヂオではフツ族ゲリラの恐ろしいアジテーションが流れてくる。近所ではツチ族の妻を匿ったために殺されたフツ族もいた。
 翌日、フツ族大統領は飛行機事故で死亡した。ツチ族過激派の暗殺とされ、フツ族による大量虐殺が開始される。「ミル・コリン」を訪れると、早くも多くのツチ族難民がポールを頼ってホテルに逃げ込んでいた。
 「ジェノサイド条約」にのっとってPKOが保護に訪れるが、ソマリアPKOの血を流したアメリカはハナから逃げ腰。ルワンダの出来事を「ジェノサイド的行為」(≠ジェノサイド)と規定して、PKOの撤退を進める。
 フツ政権を支持していたフランス政府は虐殺を支援(ルワンダ大統領カガメの証言)。
 警察も民兵と衝突して余計な血を流したくない。
 孤立無援、八方塞の中、ホテルの宿泊客を守り抜くためにポールができることは、あまりにも限られている...。

 社会派ドラマで感動的に迫ってくると思いきや、意外や意外、あっさりした演出でビックリしました。次々と起こる難題を丁寧に追うんですが、感傷的な場面をクドクドとってる感じがしなくて、ドキュメンタリーを観てるかのような印象を抱きます。
 監督はテリー・ジョージ。この人の映画で観たことあるのは脚本の『ボクサー』ですね。この映画もIRA問題を感傷的ではなく、非常にクールな視線で描いてたのを覚えてます。もともと大人の映画を作る人なんですね。
 クドい感情表現で観客を巻き込んでこないので、ともすれば観客を置いてけぼりにさせがちな演出ですが、『ボクサー』でも『ホテル・ルワンダ』でも視点を主役に固定して、ひたすら食いついていくので、主人公の細やかな感情に巻き込まれていきます。ダニエル・デイ・ルイスドン・チードルも表の感情をあまり表さない人ですね。主人公がクールなだけに周りの状況のすさまじさが引き立ってきます。ただ、本作のほうは大虐殺で自分の命もかなり危ないという、状況がのっぴきならないところにあるので、巻き込まれ度はこっちのほうが高い。
 血の流れない兵器は大虐殺を生むとクワトロ大尉が言ってましたが、ルワンダではマチェーテで大虐殺が行われました。まるで今の時代とは思えない出来事で、しかも異国が舞台であると、やはり別の世界の出来事として見えてしまうかもしれないと不安でしたが、整った物語を用意するわけでもなく、ひたすら状況の悪化を淡々と描いていく演出は逆に切迫感を与えてきます。
 最後に、ドン・チードルは非常にカッコよかったです。ただのホテルの支配人が、大虐殺に巻き込まれ、難民を守れる人間が自分しかいないということを自覚していく過程は、静かですが、ぐっときますね。例のシーンの他にも、雨の中、多くの難民に見守られながら、一人ホテルの前に佇むショットは、ポールの小ささ頼りなさと、背負うものの大きさを表現したベストショットです。
 ポールの立場は非常に弱く、はかないだけに、宿泊客を守り抜いた事実だけでも劇的です。これを下手にドラマチックに描いたらあざとくなってしまったかも。静かに描いてみせたほうが、ルワンダという途方もない事件をより感じられるのかもしれません。
 
 「スパイがばれたグレゴール」は詰問場面もリンチ場面もなく、唐突に消えたし、「難民キャンプに向かう場面はなぜ難民が逆流してる」のか何の説明もなく、ちょっと不自然な展開があったので、カットも多かったんでしょう。直接的な殺人描写も全くなかったので、おそらく完全版DVDとか出るでしょうね。