THE 有頂天ホテル(2005)

『有頂天時代』も『グランド・ホテル』も未見ですが...

晦日を迎えた高級ホテル「ホテル・アバンティ」。カウントダウンパーティーを前に、ホテルの従業員は大忙しだ。しかも、こんな日に限って、やってくるのは厄介な客や騒動ばかり。家出少女と家出アヒルを続々放出する人望のない劇団、ホテルの構造を熟知して何度でももぐりこむコールガール、進退窮まった悪徳代議士に、自信のない大物演歌歌手。従業員も、出世に恋に夢に育児に大変な人たちばかり。果たして、みんな幸せに新年を迎えられるのか...というか、最近では類をみない超豪華キャスト、膨大な登場人物を三谷さんは上手くハッピーにまとめられるのか。

 面白かった!幸せですね。
 こんなおめでたい気持ちになれる映画、新春第一弾で流せばいいのに、1月末の第二弾公開はちょっと時期外れですよ。役者だって相当に豪華なのに...。
 まぁ何となく理由は想像できるんですよね。友人は「スケール小さそう」、「華のなさを感じる」といいますが、これはやはり、ホテルの中だけで物語が終始してしまうところと、三谷幸喜の描く人物像にあると思うんですよ。
 三谷さんの描くコメディはお約束が多いにもかかわらず、皆に愛されるのは、基本的に「いるいる、こんな人」と思ったり、思わず感情移入したくなる小市民を上手に描くところにあると思うんですよ。そして、各登場人物への愛がある。「王様のレストラン」でしたっけ?毎話、各登場人物にスポットを当てたいと言ってたのは。どいつもこいつも一癖ありながら、否定をしない。人物の癖を上手く描きながら、それを修正するような説教臭さはなく、認めてしまう人間賛歌をみてしまうんですよね。『みんなの家』とか、『ラヂオの時間』とか。三谷作品は人並みに楽しんでいる程度ですが、どの話も和解と救いに向かって走りこんでいく感覚にカタルシスを感じたものでした。
 同じ役者さんを何度も使う傾向が強い三谷さんですが、登場人物だけでなく、一度であった役者も大事にしたいという三谷さんの性格の表れではないでしょうか。
 でてくる登場人物に極悪人も、スーパーヒーローもいない。登場人物みんなを大事にしたいから、軽妙な群像劇になりがち。社会問題よりも人間が大好き*1。だから大事件を描きにくい。そこに三谷エンターテイメントがド派手に突き抜けられない側面がある気がします*2。それだけに芹沢鴨の大悪党っぷりを見事に描いた『新撰組』はちょっと異質ですよね。
 しかし、だからこそ三谷さんの群集劇コメディは凄く上手い。ドタバタコメディをハッピー・エンディングに向けてぐいぐいまとめ上げてしまう力量はさすがです。
 
 旬な役者がゾロゾロと出てきますが、みんな魅力的。役所広司のドジないい人っぷりは応援したくなるし、カリカリした松たか子の小冒険にはワクワクします。佐藤浩市が大物代議士役を演じ、ムッとした顔で出てきた時は、「おお、芹沢の再来か!」と思いましたが、人の意見にひらひら左右される人間臭い小物に。今一番旬の女、篠原涼子は魅力を飛ばしまくってます。『下妻物語』でも感じましたが、ちょっとバカで頼りない子を演じさせると見事にはまりますね。
 女優陣では原田美枝子がすさまじい癒しオーラで他の女優を圧倒。『愛を乞うひと』も『OUT』も泣いたなぁ。容姿は普通で、お腹も少しでてきてるのに、この風格はなんなんだ。麻生久美子はこれが初めて。スチュワーデスのコスプレで頑張ってたけど、噂に名高い麻生癒しオーラにおののくことはなかったな。戸田恵子も癒しオーラがありますね*3。この映画はオバチャンがかわいいです。
 テーマも「自分らしく/自分に素直に」ですから、とことんポジティブ。クライマックスはみんな幸せ、スッキリサッパリで年末や年明けにぴったりの映画だと思うんですがねぇ。

*1:ここ、三谷さんですごく好きな部分です

*2:もちろん舞台劇感覚のスケールの小ささも大きいです。けっこう長回しも多かったなぁ。ほぼワンシーン・ワンカットらしいです

*3:てか、この人もともと鬼太郎やアンパンマンやってた人なの!?知らなかったよ!