さまよう魂たち(1996)

■ストーリー
町で次々に起こる奇怪なポルターガイスト、そこに颯爽と現れるのは心霊調査員のフランク・バニスター(マイケル・J・フォックス)。どうみても胡散臭い調査方法だし、料金もぼったくり。住民からは全然信頼されてないが、もちろんフランクはインチキ。でも、彼は幽霊を見ること、彼らと話すことができるのだ。愉快な幽霊仲間とインチキをやってたんだが、不可解な殺人事件が発生。殺されたものたちは皆、フランクにだけ見える心霊数字が額に刻まれていた。そして、彼女の額にも数字が刻まれたとき、フランクは事件を起こしている凶悪な死神と対決することを決意する。

 秘宝のDVD紹介に載ってて、「へ〜、監督がピーター・ジャクソンか。へ〜、主演にマイケル・J・フォックスか。面白そうじゃん」って何気なく借りたら、大当たり。これ、メチャクチャ面白いですよ。
 ピーター・ジャクソンの映画って、なんだかよくわからないけど、物事がどんどん進んでいくってドタバタ感をすごく上手く表現してくれるので、こっちがストーリーを追ってる感覚を持たせないんですよね。実際筋運びは結構強引なんですけど、逆にそれがいい。そもそもこれはドタバタコメディだし。結構複雑な人間関係をわかりやすくスッキリ魅せているので、やっぱり演出力は人並み以上にある人ですよ。その辺は指輪トリロジーで証明済みですけど。
 
 ピーター・ジャクソンにとっては、これが初のハリウッド映画ですね。ジャクソン監督作では地味なほうですけど*1。地味だけに役者も超豪華ってわけじゃあないんですが、かなりマニア心をくすぐるラインナップになってます。
 まず、ポマードたっぷりの超短髪がいかすFBI捜査官にジェフリー・コムズ。『死霊のしたたり』でのハーバート・ウエスト役があまりに強烈で、ホラー映画の仕事ばかり舞い込んでる人ですが*2、今回の女性が苦手で挙動不審なFBI捜査官役は、やっぱり『死霊のしたたり』を見て、ハーバート・ウエストに惚れこんだピーター・ジャクソンの判断でしょう。女性を尋問できずにコソコソ影で独り言をいってる序盤から怪しさをムンムン漂わせてきます。全身をオカルト知識で武装しており、やっぱり最後は女性に手をかけようとします。捜査するより捜査される側に見えるドギツイ個性を発揮できるのはやっぱり器用な俳優なんですよね。もうちょっと活躍の場が広がってもいいのに。
 墓場を守る幽霊軍曹役にR・リー・アーメイなんて、役柄も格好もハートマン軍曹(『フルメタル・ジャケット』)と全然違わないの。これも小ネタに使おうというよりも、生軍曹に罵倒されたいという監督の願望から実現したキャスティングじゃないだろうか。ニュージーランドでは軍曹に「ふざけるな!大声出せ!タマ落としたか!」と罵倒されながら、監督は至福の笑みをたたえるのです。「おかしいか、デブ二等兵?その胸クソ悪い笑みを消せ!早く顔面に伝えろ!」
 これで制作が監督の故郷、ニュージーランドで行われてるので、初ハリウッドで素晴らしい待遇を受けてることになりますね。
 製作のロバート・ゼメキスもジャクソンに好き勝手やらせてる感があり、結構ファミリー向けのコメディー・タッチなのに、すぷらったぁもノリノリでR指定くらってます。
 「もう死んでるから」って、幽霊の頭吹っ飛ばしたり、真っ二つに切断したりしてますが、ピーター・ジャクソンスプラッターは基本的に明るい。監督の中ではスプラッター度が最も高い『ブレインデッド』。人体破損の数や、血の量、バリエーションは他のホラーと比べてもかなり多いのですが、これもやはり心理的圧迫感がないんですねぇ。監督自身のネアカな性格が、スピード感と笑いを盛り込んだハイテンションな演出を可能にしてるんでしょう*3

 監督の暴走はメイクや演出にも及んでます。
 幽霊判事一人のメイクにわざわざリック・ベイカー御大*4を招聘。体から骨が露出するというより、骨に肉がくっついてるといった感じの腐敗死体を見事に表現しています。グロくないけど存在感のあるメイクをやってのけてくれました。『狼男アメリカン』の時は役者が「俺の演技が目立たねぇ!」と怒ったらしいですが、確かに役者の演技には全く注目してなかった(笑)。
 ついでにヒロインの夫を演じるピーター・ドブソン。彼は『フォレスト・ガンプ』でプレスリーを演じたのがキャリア・ハイライトらしいんですが、ポルターガイストのシーンで、画面のど真ん中にプレスリーの人形を漂よわせてます。そんな小ネタ気づかないよ!さすがクドイ、細かい、ピーター・ジャクソン
 だけどクライマックスに向けてグイグイ盛り上がる展開はさすが。キチガイどもを潜り抜けて大冒険を繰り広げるマイケル・J・フォックスは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を髣髴とさせる大活躍です。フォックスはジェットコースター・ムービーが本当にしっくりきます。ヒロインの夫もビフに似てませんかね?

 いくら明るくても腸がチュルチュル伸びて襲ってくる『ブレインデッド』はさすがに人を選ぶんですが、本作は地上波で流したってOK。勧めた後で「あいつはやっぱり頭がおかしい」と後ろ指さされることもないでしょう。
 
…ヒロイン、トリニ・アルヴァラードも綺麗だよん。元フラメンコダンサーって、イメージに合いすぎですねぇ

*1:パッケージも地味すぎ!

*2:スタートレックでも結構活躍してるようです

*3:監督が一人二役で脳ミソを垂れ流しながら宇宙人と戦う『バッドテイスト』参照

*4:スター・ウォーズ』『狼男アメリカン』『ビデオドローム』『エド・ウッド』etc...ジャクソン監督の『キングコング』でも技術顧問として参加