七人のマッハ!!!!!!!(2004)

七人のマッハ

■ストーリー
刑事デュー(ダン・チューポン)は目の前で上司が殉職したことにショックを受け、傷心の日々を送っていた。そこで気休めのためにテコンドーの達人の妹ニュイの参加するスポーツ慰問団についていくことに。しかし、ある村を訪れた際にテロリストと遭遇。この部隊、女子供も情け容赦なく撃ち殺し、瞬時に村を制圧したプロの戦闘者集団であった。テロリストは国家相手に交渉を開始。ここでも見せしめに村人の殺戮を続け、政府にプレッシャーを与え続ける。
一人だけテロリストの監禁を逃れ、ダイ・ハードよろしく孤軍奮闘を続けるデューであったが、隠れ場の少ない村落に監視カメラの設置、そして大人数の殺戮集団を相手にデューの出来る抵抗には限界があった。
テロリスト達の交渉期限は24時間。大殺戮の時は刻一刻と迫りつつある。デューが村人達に迫った究極の決断とは...?

 事前にUSA-Pさんの記事を読んでいたため覚悟していましたが、いやー、それでも予想以上に暗い、陰惨。これはGAGA宣伝部の罪ですね。見方を変えれば面白い映画なんですが、あまりにも宣伝内容と違うのでガッカリした観客も多いんじゃないでしょうか。タイトルも嘘ついてて七人ではないし、マッハとあまりにも色が違います。近年まれに見る詐欺宣伝なのですが、暗い暗いアクションという人が見たがらない内容、タイ映画はまだ『マッハ!!!!!!!!』が定着したばかりという状況をかんがみるに、宣伝部の苦悩も伺えます。個人的にはすごく気に入ってて魂震えた映画なので、これから本作を見たいって人には、暗いぞ!残酷だぞ!ハードコアだぞ!という覚悟をしていてほしいですね。
 
 やってる映画館も少ないし、観客もさほど動員してないようですが、これは映画館で観てほしい。本作の最大の魅力は決死のスタントにあるのです。ここでもマッハの罠があって、トニー・チャーみたいな超絶で華麗な演武を期待されると裏切られるのですが、あちらがTNAやNoahのジュニアのような正攻法軽量ファイトであるならば、『七人のマッハ!!!!!!!』は全盛期のWWFタッグ戦線のようなスーサイド系ハードコアファイトじゃないでしょうか。分かる人の限られる微妙な例えで申し訳ないのですが、つまりは自殺覚悟の体当たりをしている役者の覚悟を楽しむ映画なのですよ。
 ジャッキー・チェン映画のラストでは必ずNG集が流れますが、時々笑えない危ない失敗してますよね。本作も制作中のスタント場面の舞台裏を流してくれるのですが*1、これがどれをとっても笑えない。宣伝やトレイラーでは何度も流れたトラックとトラックの間を落っこちる轢死寸前のスタントに代表されるように、超高所からの飛び込み、松明への頭突き、火炎ボールの顔面ヒットと、これはメジャーのプロレスではまずお目にかかれない危ないスタントが満載です。特にトラック落下スタントは轢死しなくても走ってるトラックから地面に直に落っこちれば骨折するはず。この映画にでてる人たち、映画のために命捨ててます。
 
 体当たりなスタントの性格がストーリーに反映されているのか、ストーリーの転換点は目的達成のためには己が傷つくことを厭わない映画スタッフの意気込みのようなものを感じます。主人公達がテロリストと戦うシーンも、テロリストを倒すことよりも、相変わらず虐殺される村人や傷つきながらも前進する主人公の姿に目を奪われました。まさに受身と攻撃の快楽を同居させたハードコア・プロレスの世界*2。マッハが攻めのアクションなら、『七人のマッハ!!!!!!!』は攻めと受けのアクションといえるでしょう。
 
 …まだ面白いと納得できない?ジャッキー・チェンの『酔拳2』に匹敵する名作ですよ!本作での村人が死にまくる、異常に陰惨な前半部分は恐怖を忘れて体当たりする切羽詰った状況に観客を引きずりこませるための長い長い溜めなのですよ。またプロレス風に言えばホット・タッグ。『酔拳2』も前半は主人公の活躍は抑えられており、工場の労働者が搾取され苦しめられています。主人公が暴れ始めてからは痛快無比。ジャッキー・アクションはやられながら、痛みながらも前進するところも大きな魅力ですね。まさに本作と同じ。ジェット・リーみたいに一方的ではないのです*3。『酔拳2』のクライマックス、真っ赤な闘神に変化するためにアレしたのは、決死の覚悟のあらわれに違いない!本作もアレして闘神に変化しますね!
 
 骨を断つために己の肉を切る震えを体感できる切迫した90分がここにあります。パンナー・リットグライ監督はストーリーもアクションも『マッハ!!!!!!!!』とは全然色の違う映画を作って幅の広さを見せてくれました。タイ映画の底知れぬ勢いを感じられるでしょう。

*1:監督がけが人がでてないと豪語しているためか、NG集は少ないです。アレでけが人なしってウソだろ!?

*2:村人だけじゃなくて、スーパースポーツマン集団ももっと傷つけばいいんですが。村人がバタバタ死んでる凄惨なゲリラ戦の中でファンタジックな動きを見せるスポーツマン集団に違和感がないといえばウソになります

*3:ジェット・リーは大好きですよ、念のため