家族ゲーム(1983)

家族ゲーム [DVD]

家族ゲーム [DVD]

■ストーリー
工業団地に住む沼田一家。成績不良、いじめられっ子で捻くれものの問題児、茂之(宮川一朗太)は中学三年生で受験を控えていた。そこで家庭教師、吉本勝(松田優作)が雇われることになったが、沼田家に潜在する問題、不安に揺さぶられることになる。

 なんじゃこりゃ。
 友人が「見るかい」と誘われてて、タイトルだけは知ってたので鑑賞したんですが、事前情報ゼロで成功。下手な問題意識なしで、ぶち切れた登場人物の奇行を存分に楽しませてもらいましたよ。いやぁ、楽しかった。
 セリフの間といい、狭苦しく不自然な食卓など見ているものを徹底的に不安にさせるシーンといい、演出が極めてシュール。傍若無人で何考えてるかわからん吉本と徹底的に性格醜悪な茂之の掛け合いは雰囲気と合っていて、見ていて非常に楽しい。
 
 特に優作演じる吉本の全く予想のつかない行動は、飄々とした雰囲気と一致してていいですね。松田優作の日本人離れした巨大な図体が演出で全く隠されてないので、彼がいるショットは基本的に不安で、なおかつ行動が突発的。
 最初こそ「この味は嘘をついている味だ…ッ!」と怪しい雰囲気をビンビンに発していましたが、茂之の腐った性根に男の魂が目覚めたか、突如としてマッチョになります。いつの間にか団地に女作るし、酒だってがぶ飲み。もちろんこの世代なら男はみんなプロレスオタク。ヘタレ茂之にビンタにコブラツイストで闘魂注入するのだ。ダァー!
 
 主人公茂之は勉強が出来ない、性格悪い、自信過剰、いじめられっ子という我らがダメ人間です。これはもうかなりレベルの高いルーザーっぷりなのでダメ人間愛好家は必見ですな。「成績もあがり、性格もよくなったかと見せかけて、受験合格時に幼馴染の不合格を喜ぶという変化のなさはいかす」。監督ツボを心得ていらっしゃる。
 親父さんもよかった。「家の中に居場所がなく、家族のために子供を教育しているつもりで、結局それは自己満足にすぎないことに全く気づいていない。おまけに肝心なときに子供に教育できない無力さもいい。風呂場に閉じこもって豆乳チュウチュウやってるのは子供っぽくて哀れですなぁ」。
 
 このままシュールな雰囲気で終わりが見えなかったのですが、クライマックスはこれまた素晴らしい出来に。なんかカッコつけた不条理劇みたいな終わり方ですが、これまでの肩にしこりを残すというかしこりだらけの演出が効果的にカタルシスを感じさせてくれます。どうでもいいことですが、この映画の優作は上手そうに飯を食う。それはそれは一心不乱に飯を食うのでこっちまで腹が減ってくる。やっぱり飯は多少行儀が悪くてもガツガツやったほうが、なんというか素直で好感が持てますね。
 
家族ゲームというタイトルとラストの分析ですが、ネタバレにつき伏字

 家族ごっこというのが本作のテーマなのか?みんなが家族のフリをしている違和感を演出していると...。映画を見た限りそんな印象受けなくて、優作すげぇすげぇと圧倒されただけでしたが、なんか解釈を要求させる終わり方されましたね。バカだから考えてしまいますよ。で、結論でましたが「家族ごっこ」の論点に見事に乗っかってしまった。影響され易いなぁ。僕はバカだ...。
 マヨネーズぶちまけるわちゃぶ台ひっくり返すはで、痛快極まりないラストシーンですが、あれは父親役を押し付けられた吉本の怒りなんじゃないかと。映画が進むにつれて勉強以外で家族が吉本に依存する度合いは強くなっていきます。喧嘩指南は吉本が自発的にやったことですが、本屋から連れ出したり、志望校の変更を告げに言ったりするのは家庭教師のやることじゃないです。恋人との時間も犠牲になってましたね。最後は家族喧嘩に巻き込まれるわ、兄貴の教育も頼まれるわで、もうイライラは沸点に達してしまったんじゃないでしょうか。
 父親は初めから家族の中に居場所はなくて、大事な話は食卓ではなくて車の中でやったりしてますが、奥さんの悩みは聞いてあげないわ、子供には自分の意見を押し付けてばかりで孤立しがち。別に風呂の中で乳飲んでるのは羊水に浸かって母親の乳房にしゃぶりついてる胎児のメタファーだとかいいませんが、そうでなくてもわがままで子供っぽくて父親の自覚に欠けてるところがある。
 まぁ、てめぇが父親になったとき孝助(伊丹十三)みたいにならないかと言われたら自信ないし、もっと惨めな父親になるかもしれないけど、まだまだ結婚なんてファンタジーでしかないモテない大学生の感想は上記のものだったってことですよ。あー、モヤモヤしてきた!
 さて、父親役押し付けられたなと印象付けられたシーンは二つあってですね。それは食べ物にまつわるシーン。例の志望校変更の届出を吉本に依頼するシーンですが、母親の由紀さおりが豆乳を差し出すんですね。これまでお茶や酒を差し出していたのに、このシーンだけ豆乳。パパさんが大好きでお風呂でチュウチュウしてた豆乳を差し出したんですね。これは豆乳だけじゃなくて父親役を吉本に押し付けているシーンなのかなと。
 弱いっすか。じゃあ次。玉子焼きが完熟でパパ孝助が「チュウチュウできないじゃないか」と怒るシーンですね。夫婦の不理解と距離感を明らかにするシーンですが、玉子焼きが完熟になったことで孝助がまた家庭の中で疎外されたことを示しているのかなと。
 以上、ちゃぶ台返しといえば星一徹だよなぁ連想から広がった妄想でした。