わが闘争-不良青年は世界を目指す

わが闘争―不良青年は世界を目指す

わが闘争―不良青年は世界を目指す

 間もなく『男たちの大和』公開されますが、俳優陣も制作費もこれまでの角川映画とはスケールが段違い。主演に反町隆史中村獅童、共演に渡哲也、仲代達也、鈴木京香と大河レベルの豪華さ。制作費は脅威の60億。金をケチるという考えは全くないのか、原寸大の模型をズドンと作ってしまう気前のよさ。話題性の重要さをわかってやってるのか、僕らボンクラを大喜びさせるギミックを仕掛けてきます。角川メディアミックスは今回も健在で長渕さんが新曲を披露してくれますよ。角川春樹のおねえさんも同タイトルの原作をバンバン売り出して角川春樹事務所に貢献しますよー。昭和の角川映画全盛期を思わせる力の入れようで、角川春樹事務所もいよいよ正念場を迎えた様相を呈してきました。
 
 そして映画公開に先立って著された角川春樹の自伝が本作です。出版界どころかメディアそのものを変えた怪物の著作、満を持しての登場です。メディアミックスと角川映画をはじめたのは知ってたけど、ブックカバーと帯を変えたのは知らなかった。角川春樹以前の角川出版が全然性格の違う出版社だったのも知らなかったし、最近のお家事情も知らなかったですよ。
 角川春樹の人となり、サクセスストーリー、そして人間ドラマが楽しめる短いながらも中身の濃い楽しい本でした。
 
 まずタイトルと表紙がすごいでしょ。第三帝国のちょび髭独裁者の著作と同タイトル...。甲冑の角川春樹はタイトルで騒ごうが気にしねぇ、インパクトあるだろうと超然としているかのようです。表紙の時点でこんなに強烈なつかみを持っていたのはリック・フレアー自伝の帯「プロレスインポもこれでビンビン!」以来ですよ。さすが出版界の大物の自伝。表紙から他の自伝と格の違いを見せ付けてきます。本文では時々、刀を構えた角川春樹が見得を切ってきます。この人、意外と自己顕示欲強いんですね。
 内容はもっと凄いですよ。俺は天才だ、周りは馬鹿だと臆面もなく書きなぐったり、神秘的なものや、古典文芸への傾倒、女の遍歴を綴っても徹底して自己肯定。書いてることはボンクラくさいけど、業績はメディア史に残るほど偉大なんです。ナントカとカントカは紙一重っていいたくなるけど、言ってはいけなぁい。
 目次を読む限りでは「何だこいつ」って印象ですが、読み進んでいくうちに「そうだそうだ、角川春樹は天才であり、芭蕉を超える俳人であり、美女の唇を奪い、個人で200兆円くらいの資産価値のある大人物であり、UFOを呼べる歩く神社なのだ!Wooooooo!」とテンションが上がってきて春樹節にトリップしている自分に気づくでしょう。とにかく凄まじいノリのオレオレ節。
 UFO見えるぞと一章丸々かけて力説されるあたりから嫌悪感をもつことが野暮だってことに気づくはずです。角川春樹は謙遜とか世間体とか超越した存在であり、生けるファンタジーなんでしょう。UFOとメディアミックスを同じくらいの分量で語ってるところから、我々とスケールが違うことを思い知るべき。
 親父が既に社長であり、家族関係も複雑だったことで、人間ドラマというのも興味深い描写が多いです。
 
 『男たちの大和』の予習として、下手したら原作よりもふさわしいかもしれません。ボリュームの少なさはハルカマニアならぬハルキマニアには物足りないかもしれませんが、角川春樹ことを全然知らない僕には十分満足できる内容でした。角川春樹に対する情熱を燃やしながら映画に挑めるでしょう。『男たちの大和』惹かれなかったけど、これを読んだら見ずにはいられませんよ。すんごく面白い本でした。