ブラザーズ・グリム


7年ぶりにギリアムが帰ってきました。僕も三ヶ月ぶりに映画館に帰ってきました。
「負けるなギリアム」って記事を事前に読んでましたが、「ブラジル」と「ラスベガス〜」におけるギリアムの暴れっぷりはすごいですね。映画撮れなくなるのもやむなるかなという感じです。
そのためか、本作もギリアムの私情が垣間見えるように思えて仕方がない…。

■ストーリー
いかさまの悪魔退治を生業とするペテン師グリム兄弟、ウィル(マット・デイモン)とジェイコブ(ヒース・レンジャー)。でもペテンがなんかフランス政府にばれてしまい、免罪のために少女行方不明事件の調査に向かうことに。しかし、事件の起きた森はとてもペテンとは思えない奇想天外な現象が次々に起こっており、村人すら入り込むことはなかった。超常現象にペテン師グリム兄弟は立ち向かうことができるのか。

 『ブラジル』でも『バロン』でも『フィッシャーキング』でも撮り損ねたドン・キホーテでも、夢みる男を描き続けたテリー・ギリアム。今回も物語の中心にいるのは夢と空想の世界の住人、弟のジェイコブになります。基本的に報われることの多い「夢みる男」達ですが、今回のジェイコブは現実を犠牲にしてたり、他人に迷惑をかける度合いは大きく、女にも金にも目を向けない。妹の命を犠牲にしてしまったのはトラウマになってます。現実家のウィルはそんな弟に心配するやら腹が立つやら。果たして今回、夢みる男ジェイコブは救われるのでしょうか。
 
 しかし、こうも夢みる男が物語の中心に置かれると、さすがに主人公はギリアムの分身じゃないのかと思いたくもなります。ファンタジーへの傾倒具合、夢みる男への温かい視点を見るに、多分間違ってはいないでしょう。
 モンティ・パイソンのメンバーでは独りミーティングに参加せず、黙々とアニメーションを自宅で作っては提出する日々だったことを思うと、共同作業が苦手なんじゃないのかと思います。映画を撮ればトラブル多いし。だとすると、好きなものを好きなように作ってたほうが、ギリアムにとって幸せだと思うのですが、『ブラジル』と『フィッシャーキング』が当たってしまい、個性の強い監督として、特に俳優から愛される存在になってしまいました。
 ハリウッドはインディーとは違い、プロデューサーの介入や、スタッフとの調整が難しく、自分の意見が通らないことが多いでしょう。自分の好きな世界観を作り出してるギリアムにとって、愛している世界にいろいろ口出しされるのは鼻持ちならなかったんでしょう。
 こんかい7年間映画を公開する機会に恵まれなかったのは、ギリアムも堪えたんじゃないでしょうか。「自分の世界観や価値観に共感を得られるとは限らない、現実を見つめて無難な映画をつくろうよ」という声が聞こえてきたのかもしれません。「現実を見つめろよ」と、とにかく小うるさいウィル・グリムはギリアムの不安の現われのように見えます。妄想にすぎませんが、ウィルとジェイコブの葛藤はそのままギリアムの葛藤に写ってしまう。「ラストは二人がヒロインのキスを得るから、やっぱりグリムは二人で一人=ギリアムというのは穿ちすぎかな」。
 葛藤というのは、初期の『ブラジル』よりもギリアムは冷静じゃなくなってる感が伝わってくるんですよ。「ウィルを刺しちゃっても夢を見る男を全面的に肯定してしまったラストはギリアムの覚悟ではなくて、自分の世界観の正しさを強引に認めさせようとしている焦りに見えなくもないです」。だから、ファンタジーよりも、よっぽど不条理な世界に苦しむ妄想男にある程度の距離感があった『ブラジル』はまだクールだったんじゃないかなと。
 
 なんでこんなに映画の本筋と離れたことをダラダラ語ってるのかというと、この映画、グリム童話を題材にする意味が余り見出せなかったんですよ。赤ずきんちゃんも、シンデレラも、部分的に映画に用いられているだけで、内容とは不快関わり合いはなし。問題解決に当たって、理不尽非効率極まりないフランス軍、強引に森の中でストーリーを閉じさせる展開、だから予算の割にスケール小さいと、映画として必ずしも完成度は高くない。それでもこれまでだと映画をオレ色に染め上げていったギリアムなんですが、今回のおとなしさは一体どうしたことかと考えたわけですよ。
 なかなか満足できない人もいるかと思いますが、ギリアム視点で妄想を広げていけば、なかなか楽しいですよ。現在65歳ですが、まだまだ何かやってくれそうな期待を持たせる監督さんなんで応援しますよ。いや、『バロン』ずっこけたけど大好きなんですよ。『タイランド』では是非ともギリアム色満開を期待したいところです。

以下、IMDbで気になった記事をメモ
 当初の予定ではキッドマン、アンソニー・ホプキンズ、ロビン・ウィリアムズジョニー・デップ出演予定だったらしい。実現したらとんでもない豪華キャストでしたね。
 製作会社ではMGMに見捨てられた後、ウェインステイン兄弟に拾われてます。MGMのライオンは久しぶりに見ました。
 映画で最も金のかかったシーンは、映画の序盤に出てきてしまうためにカット。えぇ〜
 グリム兄弟、もともと役は逆だったらしい...。
 ミケーレ・ソアビがsecond unit directorに名前を連ねています。何やったんだ?