アマデウス(ディレクターズカット版)

アマデウス ディレクターズカット スペシャル・エディション [DVD]

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■ストーリー
「私がモーツァルトを殺したんだ!」と発狂した作曲家、サリエリ(F・マーレイ・エイブラハム)。彼が神父に告白する形で、サリエリモーツァルト(トム・ハルス)の物語が幕を開ける。恐るべき才能をもつ神童だが、軽薄で幼稚なモーツァルトと、人一倍音楽を愛し、理解する力に恵まれたサリエリの関係は上手くいくはずもなかった。皇帝ヨーゼフ二世(ジェフリー・ジョーンズ)に仕えるサリエリモーツァルトがいやにでも目に付く。サリエリの嫉妬は徐々に増長。果たして「モーツァルトを殺した」という言葉の真相は…。

 てっきりサリエリはただの狂言回しだと思ってたら、普通に主人公でしたね。
 自分でコントロールできないほど肥大した才能を抱えたモーツァルトが人格崩壊して周囲に迷惑かけまくった挙句、自滅する話かと思いきや、ただの空気を読めない軽薄男児でした。このモーツァルトなら普通に友達になれる。
 描写もモーツァルトに対しては非常に温かい視点になってます。部屋を片付けない、浪費癖があり、アル中となかなかひどいもんですが、父親の束縛から逃れるかのように奔放に暴れまわり、苦悩するモーツァルトは共感を誘います。純粋な奴で自慢も攻撃も直接的で嫌味がない。…これは、まぁ面と向かえばむかつきますが、対を成すサリエリが陰湿な奴なので、モーツァルトがいい奴に見えてしまう。あとは大衆が好きで、家族思い、認められない才能*1と、結構決定的な好感ポイントを抑えてます。
 本作で、キーとなる、いやな奴は主人公サリエリ。音楽のために愛を捨て、時間と努力を捧げ、そのためには父の死すら喜ぶ*2という恐るべき純粋な音楽ラブを披露しますが、モーツァルトという神がかった才能の前に屈服してしまいます。元が純粋なだけに、音楽ラブは倒錯します。本作を楽しめるかどうかというキーになるのは、だんだんおかしくなっていくサリエリに共感できるか否かでしょう。人間臭い行動と見て共感するか、やりすぎとみて、ついていけないか。僕はわりと後者です。執着心あまりないので、サリエリが理解できなかったのかも。結構F・マーレイ・エイブラハムの演技力と丁寧な演出に救われた感があります。
 モーツァルト夫人役のエリザベス・ベリッジは可愛いし、ヨーゼフ二世役のジェフリー・ジョーンズは威厳のある馬鹿を好演。F・マーレイ・エイブラハムはオスカーとっただけあって、かなりいい演技してたけど、他にもやたらとたくさん出演してる割にまったくもってパッとしないですね。
 オスカーとるだけあって丁寧なつくりだし、モーツァルトの悲劇として十分に楽しめます。ただ、ディレクターズカット版の三時間は長いかも。疲れました。

*1:サリエリモーツァルトに心酔するほど音楽を理解する才能がありながら、それは認められないという不遇の天才です。彼は自業自得ですが。少なくとも凡庸を象徴する人物ではないかな。彼には凡庸を乗り越えられる執着がある

*2:これもモーツァルトの対応と真逆でサリエリの冷酷さとモーツァルトの人間味を対比させます