マタンゴ

■ストーリー
ヨットでクルージングに出かけた金持ちの若者7人。しかし嵐に遭ってしまい、舵も無線も故障。漂流の末無人島に行き着く。苛酷な環境下、次第に対立が生じる。徐々に本能がむき出しになってきているのだ。そして、食料は底をつきかけた。島には動物も生息していない。あるのは、山のようにあるのは、なんとも怪しい謎のキノコ…。

マタンゴ [DVD]

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 ハロウィンには2本映画を見ておきたいなと思ってました。一本はハロウィンで決まりでしたが、もう一本借りるつもりだったエルム街、バタリアン、デモンズ3といった、普段は借りられないホラー群が、この日ばかりはさすがに借りられており、有名じゃなくても適当なものはないかなと、いつものようにレンタルビデオ店内をうろうろしていたんです。
 そこで和製ホラーで目に留まったのが本作。普通に閉じた空間で人間関係が悪化するものは好きなんですが、そこへ来てなぜかキノコがでてくるんです。パッケージを見ると、なにやらキノコの怪人が人間を襲おうとしている場面が。キノコを食べるとキノコ怪人に変身するのか、はたまたキノコを食べると幻覚を見るのか。夢と期待が広がりますね。
 これ、監督は『ゴジラ』を撮った本多猪四郎、原案に星新一、特撮に円谷英二と、実はそうそうたる面々が携わっています。これはただのキノコ映画ではない!
 
 さて、本作の見所ですが、ブルジョアと言うか、大金持ち同士のいがみ合いはおいといて、毒々しいセットの完成度にあります。菌で埋め尽くされた難破船はグロテスクの一言。風の谷のナウシカの腐界を思わせますね。セット一面びっしり菌が敷き詰められており、撮り直しとか大変そう…。人の入り込んだ跡がない。各部屋で菌が原色いろとりどりに輝いており、毒々しい雰囲気を漂わせてます。おお、まるでトリップできそう。
 キノコの森も不気味ですね。一面がキノコキノコキノコ。それぞれ形も色もバラバラですが、キノコが集まるとこんなに不気味になるとは。熱帯のジャングルを彩るのが果物ではなくて原色のキノコなのです。違和感のカタマリ。そんなキノコに囲まれてこちらを恍惚と見つめる笑顔が、それまで飢えて苦しんでいただけに気持ち悪くていいですね。数々の怪獣を作ってきた円谷プロ。怪奇な森や難破船を作り上げるのは造作もないことだったのかもしれません。
 
 次はプロットですね。ネタバレな上に多分本文も面白くないです…。「吸血鬼でもゾンビでも、違うものに同化してしまうことの恐怖というのは、何度も映像化されてきました。歴代のゾンビシリーズとかが顕著ですが、最近ではロメロの『ランド〜』において同化への恐怖が薄まってましたね。他ではクローネンバーグの『シーバース』とか。藤子・F・不二雄の短編でもそうした演出があったような…。本作では、登場人物ほぼ全員がキノコ人間になるか、人として飢えるか、選択の余地が与えられてますね。食べればキノコ人間になることは、かなり早いうちからわかってますから。キノコに同化した仲間達は半ば強引に人間に同化を勧めますが、最後まで誘惑に勝った主人公は必ずしも幸せになりません。主人公が菌を吸っているため中途半端に同化していたことが明らかになるエンディングは衝撃的です。気がふれた気味の悪い人間として扱われるよりかは、まるで同化していたほうがよかったみたい。映画が公開された63年は安保闘争真っ盛りですが、転向の恐怖はまだまだ一般的ではなかったでしょう*1。社会はおかしい、なんか変わらなきゃという変化に対する肯定的な機運があったんですかね。この手の変化変身もので「変わったほうがいいかも」と思わせるプロットはわりと新しい気がします。
 
 キノコの森は楽しいですが、娯楽度はさほど高くありません。変なものを見たと自慢できるくらいかな?
 
 
 本作を見て、「楳図かずおの『漂流教室』の未来生物編を思い浮かべる人は少なくないでしょう。というか、前半部分はまんま『マタンゴ』ですね。作品としては『マタンゴ』が1963年、対する『漂流教室』は1972年に連載開始ですから『マタンゴ』がオリジナルですね。しかし、『漂流教室』の未来生物編」も楳図さん独自の味付けがされてる好きなエピソードの一つです。

*1:完ッ全に推測です。安保闘争に関しては無知に等しいです