雨に唄えば

雨に唄えば 50周年記念版 スペシャル・エディション [DVD]
■ストーリー
1920年アメリカはニューヨーク。銀幕での成功を夢見てスタントマンから映画スターにのし上がったドン・ロックウッド(ジーン・ケリー)。大人気の女優リナ・ラモント(ジーン・ヘイデン)との共演も続き、人気はうなぎのぼり。しかし、時代は折りしもサイレントからトーキーに移り変わっていた。映画会社は試行錯誤の末、ミュージカルを作ることに。ドンはこれを機会に一目ぼれした無名女優キャシー(デビー・レイノルズ)を売り出そうとするが…。
 
 ハリウッドハリウッドといっても、最近はあまりよいイメージが抱かれていないようです。少なくとも僕の周りにはアンチが多いですね。金だけかけて内容がないとか、低俗とか、まぁ色々きらいな要素はあるようです。しかし、最大の要因は単純に面白くなくなったということではないでしょうか。最近はリメイクやコミックやドラマの映画化、外国監督の登用が相次いでおり、オリジナリティの喪失が著しくなっております。文化として成熟したら後は枯れゆくのみなのでしょうか。ジャンル別に見るとまだ元気な部分はあるのかもしれませんが、誰でもわかる、誰でも楽しめる映画というのは昨今作るのが難しくなってきているのかもしれません。
 『チキ・チキ・バン・バン』を見たときも仰天したのですが、とにかく昔のハリウッドはすごい。特に本作の面白さは尋常じゃありません。とにかく単純。だけどエンターテイメントとして細部まで完成度は高いのです。こういうのは僕は大好きですね。嫌味がないし文句なしに幸せになれる。なるべく多くの人を存分に楽しませてやろうという本気が伝わってくるのですよ。例えば、ロックウッド役のジーン・ケリーの芸達者ぶり。驚異的なタップダンスから曲芸バイオリン、歌や踊りの完成度の高さはコンピューターでは表現できない感動を体験できます。例えば、一糸乱れぬ大勢のダンス。『42番街』もなかなか驚いたのですが、本作も少ないカットで大勢が曲芸ダンスを披露してきます。音楽の楽しさ、愛と笑いと幸せに満ちたストーリーも素晴らしい。どこをいじくっても楽しさがにじみ出てくる。この隙のなさには脱帽ですよ。
 雨の中、主人公が主題歌"Singin' in the Rain"を歌うシーンは映画史上最も有名な場面の一つですね。あれを見ると、本当に雨の中飛び出したくなる。高いスーツ着こんで水溜りにダイブしたくなる。希望と楽しさが表現されてる素晴らしいシーンですよ。ジーン・ケリーは歌ってる間雨が強いのでずっと目をつぶっているのもすごいんだけど、それでもこちらに幸せを伝えてくる体の動き、表情に生粋のエンターテイナー魂を見ましたね。
 エンターテイナー魂といえば素晴らしいヘタレヒールっぷりを見せ付けてくれた悪女のリナ・ラモント。彼女を演じたジーン・ヘイデンは踊りはしなかったものの「本当に歌っています*1。音痴と美声を使い分け、なおかつ同じ人間の声と感じさせない職人芸に拍手」。あと、無名女優を演じたキュートなヒロイン、デビー・レイノルズですが、19歳でなんと本作が映画初主演というキャシー顔負けの大抜擢。ダンスのレッスン3ヶ月であそこまでできるとは、当時のハリウッドには恐ろしい怪物がいるもんだ。ちなみにデビー・レイノルズが後にレイア姫のママさんになるのは有名な話(あー、僕は知りませんでしたが…)。
 今じゃあこういう直球エンターテイメント映画も作りにくいんだろうねぇと、ラストシーンを見ながらしみじみと感じたのでした。
 映画ファンでなくても人生で一度は絶対に見てほしい大傑作です。

*1:実はさらに別の人という説もあり