ニューヨーク1997

ニューヨーク1997 [DVD]
「199X年。世界は核の炎に包まれた。海は枯れ、地は裂け、全ての生物が死滅したかのように見えた。だが、人類は死滅していなかった。」(北斗の拳オープニングナレーションより)
■ストーリー
 1997年ニューヨーク。アメリカは犯罪率400%を越え、世紀末を迎えていた。政府は増大する犯罪に対応するため、マンハッタン島を丸々刑務所として作り変えた。島の周囲は巨大な堀で囲まれ州兵によって警備されていた。一度入ったら最後、脱出は不可能。そこへアメリカに空前の危機が襲い掛かる。大統領専用機がハイジャックにあったのだ。飛行機はそのままマンハッタン島はNYのビルに激突。大統領(ドナルド・プレザンス)だけは特殊カプセルに入っていたため無事なようだ。大統領を救い出すための兵士をNYに派遣しなければ。白羽の矢が立ったのはアメリカの犯罪王スネーク・プリスケン(カート・ラッセル)。遅効性の毒を入れられたスネークは免罪と解毒剤を条件に大統領の救出を引き受けることになる。制限時間はサミット開催までの24時間。こんな無茶な作戦、成功するのだろうか。こんな荒唐無稽な設定にオチはつくのだろうか。ハリウッドのアウトローにしてB級映画の王、ジョン・カーペンターの代表作。
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 昔の映画ならではのテンポの悪さがちょっと気になってしまいました。
 それを抜かせばスネーク・プリスケンのアウトローっぷりにしびれるいい映画だと思いますよ。先に『エスケープ・フロム・LA』を観ちゃったため次の展開が結構読めてしまうのはアレでしたが、それでも愛すべき点は多々あります。
 安っぽくて稚拙なB級映画が愛されるカルトに昇華するためには、監督の本気度が問われていることが多いです。ジョン・カーペンターB級映画の代名詞と呼ばれる所以は多くの人には理解できないけど、分かる人にはわかる本気がどの映画からでも溢れてくるからでしょう。本作が多くの人になかなか理解されない所以はもちろん演出の稚拙さにあるわけで。この辺は見逃す方向で見ていきましょう。
 まずは男臭いことこの上ないキャスティングに注目しましょう。
 まず、カーペンター映画には欠かせないカート・ラッセル。アクション俳優としては小柄なほうでさほど筋肉質でもないんですが、本作を自身のベストワークといってることから分かるとおり、ハートはロックがガンガンに流れているんです。アイパッチにレザーにジーンズという、そのまま北斗の拳やマッドマックスで戦えそうな世紀末男ファッションの似合うこと。他の俳優にはないクールなまなざしは『遊星からの物体X』でも魅力的でしたが、ここが他のアクション俳優にはない渋さをかもし出しているんでしょう。
 カーペンターは最初の会議から主役はカート・ラッセルで行くつもりだったようです。お互い魂が通じていたんでしょうね。自分のやりたいようにやるため、主役を大物にしなかったといってましたが、脇を固めるのは、僕からみれば大物に見えるんですがね。そして、いかにもカーペンター好みの渋めで男くさい布陣になっているんです。
 マンハッタン島の刑務所長にリー・ヴァン・クリーフ。『夕陽のガンマン』のモーティマー大佐ですよー!未見ですが『続・夕陽のガンマン』にもイーストウッドとのコンビで活躍しているらしい。もう監督のウエスタン趣味丸出し。リー・ヴァン・クリーフの役柄はスネークと毒づきあいながらも心の奥では通じ合っているという、モーティマー大佐を髣髴とさせる位置づけに。
 大統領にはドナルド・"悪い顔"・プレザンス。出番は少ないけど存在感あるねー。どんなバカな国がこんな顔を大統領にしたんだってくらい胡散臭い。有事の際はタカ派として国民をガンガン引っ張りそうですが。ああ、だから世も末なのか。
 あと、後半で無意味にリングで格闘するシーンがあるんですが、観客のチャントから格闘家の容姿まですごくプロレスっぽい。というか、カーペンター自身、自伝でプロレス好きが高じてできたシーンだと告白してますな。でてくる選手もすごくレスラーっぽいというか昭和の香りプンプンなイカした体格していて、よくあんなの連れてきたなぁと驚いたわけです。調べてみたら本物でした。ワォ。このへんも男くさい映画を作ってやるぜという本気が伝わってくるわけですよ。
 
 物語全体のクールな雰囲気も男らしいでしょ。うじゃうじゃ沸いてくる胡散臭い人間達の中に孤高のヒーローが一人って、もうベタベタもこの上ない設定なんですが、カーペンターが描くと魅力的な世界に変わってくるのです。次回作の『遊星からの物体X』にも通じるんだけど、登場人物個々の人格描写はソコソコにバッタバッタと死んでいくし、なによりスネーク自身が他人に関心がなさそう。男女関係なしに足手まといや厄介ごとは見捨てて行きます。スネーク・プリスケンは情なんて欠片もない研ぎ澄まされたアウトローなんです。このピュアなところに本気を感じるんです。他にもクールな雰囲気を表した、お気に入りのシーンをあげると、マギー(エイドリアン・バーボー)とは骨のあるアウトロー同士であるため、言葉を交わさなくても意思が通じ合うってシーン。もう一つは逆にお互いアウトローでも刑務所長とは最後まで距離をとり、馴れ合いを拒否するシーンですね。スネークのアウトロー像がリアリティーを持つギリギリのさじ加減がキープされているんですよ。アウトローは他者との間に壁を作るけど、引きこもりじゃないんですよね。余計な人間関係を排除しているだけで、心の強い人間同士認め合うことはできるんです。このへんの描写ができるのはナチュラル・ボーン・アウトローなカーペンターならではの力といえるでしょう。
 これまで再三スネーク・プリスケンの魅力を語っていますね。『ニューヨーク1997』の魅力はスネーク・プリスケンの魅力といってもいいんですが、少ないセリフもイカしてるわけです。「スネークとよびな」は世界一有名な男のセリフですよね。いけ好かないけど馴れ馴れしい奴にはコールミー・スネークで一撃。心の壁で相手を撃退するのです。スネークを取り巻くNYの犯罪者達が口を開けば「死んだと思ってたぜ」と抜かすのも渋い。スネークというだけでみんなの扱いが変わるくらい有名なのに生きてるのを信じられない。カーペンター自身はスネークを伝説的な存在として描きたかったようですが、スネークのアウトローさを表すことにも成功しています。こんなに有名なら誰かしら消息を知ってそうなものなのに知り合いですら「死んだと思ってたぜ」。こんなに有名なら誰かしら生きてることを願ってそうなものなのに、誰も彼も妙に馴れ馴れしいわりに「死んだと思ってたぜ」。みんなにとってヒーローだけどいなくてもいい存在なんですよね。プロレスリングで見世物にされてるし。さすが孤独なアウトロー
 ストーリーも展開も後半からは綺麗に収めてきます。ボコボコにされ、後半ずっと負傷したままのスネークは『ダイ・ハード』に継承されてますね。ヒーローは無敵であったり、絶対的な強さを誇示する必要はどこにもないのです。登場人物にも観客にも媚びないアウトローは肉体に傷を負うことで観客との一体感をつかむんですよ。ここで助けがこないのも重要。一人で手負いのまま走り続けるところは中年男性の心をガッツリ掴むはず。アウトローらしいオチも最高。
 
 B級マニアにとっては、荒唐無稽すぎる設定やショボショボのセットがツッコミどころになるでしょう。特にポイントになるのは威厳の欠片もないNYの王、デュークですね。一応本作の悪役なんですが、シャンデリアをドーンと車の「外装」にしてあるボンクラっぷり。車のサイズがまた普通でシャンデリアが違和感を出しまくっているんですな。島を束ねるボスなんだからもっといい車に乗れよ。あと、見せ場を子分に取られたり、スネークと大して絡まないという影の薄さは皆さんの心をつかむでしょう。保障しますがデューク初登場シーンでは、まずそれと気づかないと思いますよ。未見の人のためにもうひとつ注目どころを言っておくと、大統領専用機テロのシーン。間違いなくビビると思います。
 
 メタルギア・ソリッドのモチーフになるほどのアウトローのシンボル、スネーク・プリスケンを生み出した稀代の快作です。これまで述べてきたとおり、それなりに見所はありますが、やっぱり演出がたるいものはたるいのであらかじめ覚悟の程を。