ランド・オブ・ザ・デッド(2005)


■ストーリー
 世界を震撼させたゾンビ・パニックであるが、徹底した統制により壊滅を免れた街もあった。カウフマン(デニス・ホッパー)の作り上げた要塞都市もそのひとつである。中心に聳え立つフィドラーズ・グリーンビルにはカウフマンと上流階級が安全な生活を営んでいた。しかし、ビルの外には下層階級が貧しい暮らしを強いられていたのだ。彼らの中には生活のために街の外を警備する傭兵もいる。主人公のライリー(サイモン・ベイカー)もその1人。彼は金を溜めて街から脱出することを夢見ていた。仲間のチョロ(ジョン・レグイザモ)はフィドラーズ・グリーンビルに移住地を手に入れるべく資金をため、カウフマンと接触をとっている。しかし、カウフマンの冷たい対応に絶望したチョロはグリーンビルのテロを目論むようになる。一方、ゾンビの中からは知恵を持ったビッグダディ(ユージン・クラーク)が出現し、ゾンビを率いて人間への復讐を決行しようとしていた。カウフマンの小都市は今まさに壊滅の危機を迎えている…。
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 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゾンビ』『死霊のえじき』あわせてゾンビトリロジーとかいわれますが、今回四作目が追加されたことで、ややこしくなりました。これからはリビングデッド・サーガとか、ゾンビ・サーガとか呼ばれることになるんでしょう。ちなみに上記三作はジョージ・A・ロメロっていう監督が撮った一連のゾンビ映画であり、ストーリーも登場人物も全くつながっていません。「頭部が弱点」とか「噛まれるとゾンビに」とか近代のゾンビ像が作られた作品なので数あるゾンビ映画の頂点に君臨しています。
 アメリカでもそこそこ興行成績あげてるし、売り上げはペイしてるんじゃないでしょうか。こうなったら次回作をボカスカ作ってゾンビマニアを狂喜させてもらいたいものです。
 前作『えじき』から実に20年。死んでも死なないゾンビマニア達も「もう新作はないんじゃないか」と思ったところに『ランド』の登場です。いやー、長かった。昨年、『ゾンビ』のリメイク、『ドーン・オブ・ザ・デッド』がメガヒットしました。そこで今回ハリウッドはユニバーサル映画より御大の復帰と相成ったわけですな。復帰するにしてもまさかハリウッドからでてくるとは、さすがのゾンビマニア達も予想だにしなかったことでしょう。ロメロはアウトローですからね。
 さて、本家の登場ということですが、『ドーン』のように華々しく宣伝されたわけでも、メガヒットしたわけでもありません。リメイクの『ドーン』より予算が大幅に縮小しているのもどうかと思いますが、映画を観て納得。こんな映画をハリウッドで作って全米公開にまで踏み切ったユニバーサルの英断に拍手です。明らかに某国のネオコン政権を模したと思われるリーダー(「テロリストには屈しない」)*1が、徹底的にコケにされ、ボコられる映画なんて、なかなかないですよ。
 本作はかつてないほど視点がゾンビよりで、秩序を破壊するカタルシスに満ちてます。とってもアナーキー。これまでのゾンビでは「愛も倫理も法も秩序もない無情のゾンビになるのはいやん」って雰囲気だったんですが、本作は「Go Go ゾンビ! Kill Kill カウフマン!」と、とってもパンクなことになってます。ブルーカラーの怒り爆発。仲間同士結束しているので「ゾンビになってもいいや。ホワイトカラーぶちのめせ」と思わせる構成に。いいのか!?
 本作のゾンビに対する見方は明らかに新しいです。「ゾンビに知恵をつける」というバブ*2以来の試みがちゃんと機能した証拠でしょう。チョロのゾンビに対する新しい認識(すごーくぼかした言い方してますよー!)も、本作の展開から自然と受け入れられます。
 ストーリーの説明みれば分かると思いますが、登場人物多いし、展開も練られてます。予算削られたことをあまり感じさせない充実度。金がもっと潤沢なら一体どんな映画を作るつもりだったのか。ジョージ・A・ロメロ、今年65歳。おそろしいじいさんですよ。
 全く退屈しないワクワク展開ですが、その分、心がずーんと沈むような圧迫感や終末感、重々しさが損なわれたのはちょっと悲しかったですね。この展開ならゾンビ走らせてもよかったんじゃないの?
 映像技術が進んでいるためか、結構グロいんですが、昔ほどグロさを感じさせないのが不思議。さすがにスプラッター全盛期みたいに人体破壊をねっとり長まわししたりしてないけど。
 娯楽志向も強く、登場人物が一人一人カッコいい。『ゾンビ』の登場人物もみんなカッコいいけど、こちらは銃や容姿まで気を配ってて、見た目だけで惹きつけるものがあります。まず、ゾンビのビッグダディ親分はゾンビ史上かつてないカッコよさ。悲しみと強さを同時に秘めているヒーローですな。ゾンビ・サーガではずっと黒人が最も利発なリーダーになるんですが、本作ではこの位置にいるのは間違いなくビッグダディ。この辺からも本作がゾンビよりの視点になったことを示してますね。自分のために生きてる孤高のアナーキー、チョロもいいね。スペ語なまりから鋸撃ち水中銃までばっちりきまってる。物語を終始引っ掻き回すカオスヒーローですね。頭は弱いけど、仁義に厚く、鬼のような射撃センスをもつチャーリー。火傷でただれた顔から、クラシックライフルに唾をつけて射撃するスタイルまで男のツボを刺激しまくる熱い奴です。
 逆に主人公、アーシア様、カウフマンことデニス・ホッパーはまだまだがんばってほしかったな。ホッパーは月並みなヘタレ悪役で力を持て余し気味でしたよ。あの驚愕のアドリブはホッパー御大のせめてもの抵抗でしょうか。スーパーアウトローのホッパーが上流階級の指導者を演じるのはやっぱり謎に満ちたキャスティングだけど、荒廃した世界から成り上がるリーダーってのは、ああいうどこか下品で野蛮なところを持ち合わせているのかもしれませんね。鑑賞してみたら特に違和感はありませんでしたよ(うさんくさく理想を騙るネオコンらしさは欠片もありませんでしたが…)。
 
 …ところで、秘宝のせいでこの映画がカーペンター映画に見えて仕方がない。どうしてくれればいいんだ!アウトローだし、男臭いし、ぶっちゃけていえば『ニューヨーク1997』じゃないのか。
 …デッド・レコニング(死の報い)号はカッコよかったですね。『ドーン・オブ・ザ・デッド』の装甲車のように大暴れできなかったのは予算の関係か。
 …従来のロメロ映画のようにせまっ苦しくて、テンポの遅いヘビーな映画とは違いますね。今の映画に学ぼうとする謙虚な姿勢は買えますが。ロメロさんからはもっともっと予算を削ったほうがらしさがでるのかもしれませんねぇ。

*1:カウフマンの実態はネオコンでもなんでもない利己主義者でしたが

*2:死霊のえじき』にでてくる知恵のついたゾンビ。元軍人なので敬礼ができる。サー!