モハメド・アリ かけがえのない日々

モハメド・アリ かけがえのない日々 [DVD]
 「キンシャサの奇跡」と呼ばれるモハメド・アリジョージ・フォアマン戦を追いかけたドキュメンタリーですね。アリ、フォアマンだけでなく、モブツ大統領、ドン・キングと脇を固める布陣も曲者ぞろい。さらにノーマン・メイラースパイク・リーといった大物ノンフィクション作家がコメントを寄せており、非常に豪華な作りになってます。
 私はボクシングにはもともと疎くて「キンシャサの奇跡」という言葉も映画を観て知った程度なんですが、とっても楽しめました。アリのカリスマ性を感じたいならオススメの一本です。とにかくアリが喋る喋る。テンポもリズミカルで言葉にも力があり、WWEのマイクをガチでいってる感じです。「一つの時代にほんの少ししか現れない本当のヒーロー」は、やっぱりアリみたいな人をさすんだろうなぁと実感しますよ。アリはこのとき既にブラックムスリムに傾倒しており、本作でも政治的な発言が目立ちます。黒人の古里アフリカを礼賛することで、ザイールの民衆の心をガッツリ掴んでいく様子も描かれてますね。あの有名な掛け声「アリ、ボンバイエ」(アリ、奴をぶっ殺せ)が生まれる過程も描かれてます。結構物騒な言葉だったんですね。フォアマンはさぞかし不気味に感じていたことでしょう。アリが奇跡を生み出す過程も印象的に描かれててものすごく盛り上がります。
 試合が6週間延期されたということで、当事者のインタビューが思ったよりたくさん手に入ったからでしょうか。情報量が多いせいか、個々の描写が薄い感は否めません。まぁ、詳しく描くとボクシングマニア映画か、政治映画になってしまうので、適度な演出といえるでしょう。徹底して「キンシャサの奇跡」の偉大さを描こうとしている姿勢が見えるのでそれは評価してしかるべきでしょう。
 しかし、フォアマンがどれだけ偉大なのかわかってないと、奇跡の重みが伝わらないと思うので、素人なりにちょっと補足してみます。フォアマンはプロに転向後、とにかく無敗。当時同じく無敗だったチャンプ、ジョー・フレイジャーに対して圧勝。さらにケン・ノートンにも圧勝。重要なのはフレイジャーも、ノートンも、アリに勝っているということ。アリはフレイジャーに勝って挑戦権を獲得しましたが、史上最強のチャンプに対してアリはいくらか格下の印象を受けてしまいます。*1フォアマンもまた貫禄があるんだわ。口数は少ないですが、気の効いた一言でアリのマシンガントークに応戦してます。王者の余裕か。そうして見ると、アリの言動はフォアマンに対する恐れを追い払おうとする所業に見えてしまいますが、実際そうだったんでしょうね。それだけに、やはりアリ、フォアマン戦は「奇跡」呼びうるものになるんでしょう。試合内容もすごいですよ、超ダイジェストですが。
 ドン・キングの胡散臭さも収穫でしたね。思ったよりデカイ。そしてぺらぺらぺらぺらよく喋りますね。どっかりした体格でどんな人にも好感を与えるところもやり手の詐欺師っぽくてマルです。そして、髪の毛はホントに逆立ってるんですね。なんかつけてるんじゃなくて天然だったとは...。いよいよ神秘的で新興宗教の教祖っぽい。
 とにかくアリのカリスマ性を感じ、「キンシャサの奇跡」を追体験するための大興奮ドキュメンタリーです。戦いの前のお祭りの映像がどしどし挿入され、クライマックスまでどんどん気分を盛り上げてくるので、暑い夏の夜にオススメ。

*1:アリは懲役拒否で3年半のブランクの後、チャンプとなり復活を遂げましたが、フォアマンはもっとすごくて一度「殴り合いはもうやめだ。これからは神父になります」と引退。何を考えたか10年後にいきなり復活を遂げて、なんと最高齢の世界チャンプになっちゃったスゴイ伝説の持ち主であります。山際淳司の文章は熱かった!