死霊のしたたり

死霊のしたたり スペシャル・エディション [DVD]
 ホラー、特にスプラッターでは非常に有名な作品ですが、ようやく鑑賞しました。パッケージが妙に怖いし、今までスルーしてましたね。いや、でもこれは本当に面白かった。死体をもてあそぶ鬼畜なマッドサイエンティスト同士の殺し合いなので、みんなやることがメチャクチャ。鑑賞後の気分はスッキリサッパリです。
 主人公は医学生のダン・ケイン。彼の元にスイスの大学から「死を研究している」ハーバート・ウエストという怪しい学生が同居しにきます。ハーバート・ウエストの研究は死んだ人を生き返らせる薬を作り出すこと。どうやら薬学専攻のようですが、ダンの大学では脳外科の授業に出席してヒル教授に喧嘩を吹っかけます。度重なる挑発にひるむヒル教授。このヒル教授も曲者で他の教授の研究を盗作してばかりの三流研究者であり、主人公ダンの彼女に思いを寄せる変態なのです。主人公ダンを巻き込みながら実験だ!実験だ!と死にぞこないのゾンビを大量製造するハーバート。ハーバートの研究とダンの彼女を付狙うヒル教授。法や世間などクソ食らえと二人の巨大なるマッドサイエンティストが死闘を繰り広げます。
 ブライアン・ユズナスチュアート・ゴードンのコンビが送るスーパースプラッタームービーですね。一応H・P・ラブクラフト原作ですが、全然世界観が違うのでこれは気にしないように。倫理観がぶっ飛んでてコメディーになってます。あまりに力強いのでピーター・ジャクソンの『ブレインデッド』と比較されるのもわかる気がしますよ。ゾンビを使ったアイデアや映像やアクションの力強さは『ブレインデッド』のほうが圧倒しているので今では少し影が薄くなっているのかもしれません。私も最初に惹かれたのは『ブレインデッド』のほうでした。『死霊のしたたり』を後に見ると衝撃が薄くなるかもという意見もありますが、なかなかどうして楽しめましたよ。
 本作の魅力はなんといっても主人公ダン・ケインを完全に食ってる二大悪役、ハーバート・ウエストとヒル教授の鬼畜っぷりにあるでしょう。ハーバートは物語の序盤から自分の研究の成功しか考えておらず、新鮮な死体とゾンビを作ってばかりです。人の命を徹底的に軽視し、研究一筋のまっすぐな目は狂気の天才オーラをビンビンに発しております。一般人のダンが徐々にハーバートの狂気に染められていくのも本作の見所ですね。善も悪もない境地にたったハーバートは背徳の象徴、ゾンビの創造主にぴったりです。これに立ち向かうは権威欲と性欲の塊、スーパー俗物ヒル教授。俗物が狂気の天才に立ち向うには分が悪いと思うかもしれません。確かに前哨戦はヒル教授が押されています。しかし、見所は後半。欲望を全開にした俗物の極致をご覧ください。悪と悪が倫理と常識を破壊しながら戦う様は『ブレインデッド』とは違うカタルシスを得られます。ハーバートもヒルも馬鹿ばっかりやってて収集がつかなくなり行動がエスカレートする滑稽さは『ブレインデッド』と通じるものがありますね。
 ゾンビの暴れっぷりや内臓破壊の思い切りの良さは『ブレインデッド』という大傑作が後に出てしまったために、どうしても盛り上がりきれない部分があります。『死霊のしたたり』のほうが先に普及したのに、いまでは『ブレインデッド』のほうが有名だから、どうしてもみんな『ブレインデッド』を先に見ちゃうのね。逆にいえば、まだ『ブレインデッド』を見てない人が本作を見れば得られる衝撃は計り知れないでしょう。
 物語の作りもスムーズです。常識的に考えてありえない流れですが、ここはハーバート・ワールドに巻き込まれましょう。巻き込まれれば筋は通ってるしテンポもいいです。物語はクライマックスに向けてどんどんエスカレートしていくし、ハーバートとヒルのあまりにひどいマッドっぷりには笑わされます。エンディングも綺麗。
 スプラッターではかなりオススメですね、これ。