鬼が来た!

鬼が来た! [DVD]
 怖い映画でした。たまたま選ばれた題材が日中戦争というだけで、ホラー映画に負けない人間の狂気、恐ろしさというのを描ききっていましたね。エンディングまでの怒涛の流れは一日中尾を引きかねない後味の悪さですが、人間の怖さを表現するためにこれほど迫力のある演出はないでしょう。詳しくは語りませんが、「後味悪し!」ってことは覚悟しておくべきでしょうね。
 日本人捕虜役の香川照之さんはなんだかうるさいだけだなぁと思ってましたが、雰囲気に飲まれてるだけの愚かな人間というのを終盤で魅せきってくれました。後になればなるほど存在感は大きくなります。強烈な時流に流されるしかない弱い人間の悲喜劇。思えば主人公に次いで不条理な環境に放り込まれた登場人物なのですが、一生懸命ながらフラフラしている姿は共感とやるせなさを思い起こさせます。後半は主人公を食ってましたね。
 この映画の最大の見所というのは、最初でも語った人間の狂気なんですけど、詳しく言ってしまうと「普通に見える人がある瞬間垣間見せる狂気」に尽きるでしょう。この映画を観て思い出すのは、やはり「悪魔のいけにえ」のソーヤーファミリーの長男ですね。まわりの人間が一気に狂気に彩られていく様は絶望とカタルシスを圧倒的な迫力で与えてきます。
 まだ見ていない人のために中盤の魅力は伏せておきます。初見だと結構意外な展開に驚くでしょう。「割と閉じた空間でのドタバタ喜劇は不条理で楽しかったですね。登場人物たちがおかれている状況が非常に切迫しているだけに見ているほうはその一生懸命ぶりに笑ってしまう。でも主人公が時折必死さを告白するシーンは観客と主人公との距離を徐々に縮めていきますね。ここから日本軍からお礼の品をもらうまでの幸せな描写までの流れは、主人公に観客が共感してしまう非常に上手い流れです。ここまで主人公のほうに観客をひきつけておいて、ラストの鬼展開は卑怯です。次々と悲劇が続くさまは本当にあっけにとられますよ。
 主人公の恋人が桃井かおりに似てると思ったのは僕だけでしょうか・・・。