スタジアムで会おう

スタジアムで会おう (角川文庫)
 『江夏の21球』で有名な山際淳司さんのわりと短めのスポーツコラム集です。中盤は本当に短いコラムが続くので、じっくり読むというより忙しいときに暇を見つけてときどきかじるという楽しみ方をする本でしょう。僕は中盤はあまりに短すぎて満足できなかったわけですが・・・。
 山際さんの上手いところは親しみのないスポーツでも目を見張ってしまう面白い題材を見つける着眼点と、エピソードから無駄を省きドラマ性とヒロイズムを抽出、厳選するスマートさにあるでしょう。ドロドロしてないのでかっこいい。淡々としてますが読ませる力があります。
 序盤の40代になってから奇跡の復活を遂げた神父のヘビー級ボクサー、ジョージ・フォアマン。終盤の武豊とオグリら三強の時代を振り返った話は楽しめました。フォアマンは彼自身がもつ神秘的な雰囲気と山際さんの英雄叙事詩のような文章が噛み合って、こちらの気分も高揚させる楽しい文章でした。武豊という若き天才ジョッキーとオグリら時代を引っ張った名馬も山際さんの文章に見合う神々しい存在だからこそ楽しめたのでしょう。
 スポーツマンが人間性を垣間見せる瞬間というのも興味深いのですが、一般人と離れたところに立ち、己の道を突き進む神々しいヒーローというのも必要です。そういうのをカリスマ性というのでしょう。
 山際さんはどこのスポーツでもこのカリスマを見つけ出して無駄なく抽出する作業が非常に上手い。こうしたことを実感した本でした。