ウェルカム・ドールハウス(1995)

ウェルカム・ドールハウス [DVD]

ウェルカム・ドールハウス [DVD]

 ブスで成績悪くて、いじめられっ子で性格も悪いドーン(ヘザー・マタラッツォ)の冴えない、怒りの毎日を描いた傑作。
 監督のトッド・ソロンズは、ダメ人間映画を撮らせると、メチャクチャ上手いらしく、代表作の本作を借りてみたんですが、たしかに凄い。『バス男』もすごかったけど、あちらは牧歌的で平和な雰囲気が漂っていたのに対し、こっちはモロに郊外!郊外怖いよー!
 学生達は所属してる組織が学校と家族しかなくて、どちらにも居場所がなくなれば、恐ろしいほどの閉塞感と孤独感に悩まされ、耐えざるを得なくなる。この映画の登場人物はみんな都会に逃げ出そうとします。都会に夢を掴みに行くなんて、映画にも描かれなくなった昨今ですが、それでもみんな都会に行きたがるのは、都会の暴力的なほどの人間の多さ、匿名性の高さに自分を埋もれさせることが出来るかもしれないという期待でしょう。アヒルだらけの中に一匹だけ白鳥がいたら辛いかもしれないけど、都会には白鳥がウジャウジャいそうだし。
 で、われらが醜いアヒルちゃん、ドーンですが、やっぱりこの子も居場所がありません。学校では悪がきにいじめられ、女の子にはレズブスとバカにされ、仲間に入れてもらえない。家でも、毎日お母さんと喧嘩するし、妹は生意気だし*1、兄貴は大学受験とパソコンに夢中なオタクなのだ。ドーンが心安らぐのは、庭に作った小屋「特別人間クラブ」に引きこもって遊ぶこと。自室は妹とシェアリングしてるのだ。ドーンくらいの歳になって、一人部屋がないってかわいそうだよね。一番精神不安定なときこそ、引きこもりたいもんですよ。ドーンは引きこもりってタイプじゃないんですが。
 感情のまま、正直に行動する主人公というのは、みていてこれほど痛快なものはないんだけど、ドーンがまさにそうですね。とにかく、報われない日々に対して、いつもいつもブスーッと怒ってる。ドーンにいやなことがあった直後にいつも決まったテーマソングが流れてくるのは笑えますね。で、怒りのドーンは、我慢しないで、ひたすらうざったくて生意気な妹をいじめたりするんです。これはほんとうに最低の人間ですね。もうすごい共感できるの。
 この映画で意外だったのは、ドーンの恋愛エピソードが中心におかれているところなんですよ。まあ、中学生だし、当然っちゃ、当然ですよね。子供じみたドーンだけど、見た目も他の中学生に比べて明らかに幼いんですよ。他の子は背も高くて、服装も少し大人びてきてるのに、ドーンの服ったら、小学生みたいな華のない服で、学校でもすごい浮いてる。ドーンは兄貴のバンド仲間のイケメン、アーンドヤリマンにどっぷり恋してしまうわけだけど、あまりにもつりあってない絵が非常に残酷。ちなみにイケメンも、兄貴もバンドをやってる同期は成績のためだったりする。打算によって支えられてるオタクとイケメンの異色バンドなんですね。イケメンの歌声に合わせて、ダンスをするドーンは最高にキュート。ドーンは自分に正直だから、わりと積極的にイケメンに迫るのです。うわあああああ。
 いじめっ子も、エゴイスティックなママも、軽薄なイケメンも、超クールな兄貴も、いちいちキャラクターが最高。この中で性格悪いので報われず、世間にプリプリ怒りをふりますドーンのダメっぷりは心に突き刺さるものがありますが、笑えます。映画を見ていてドーンに共感したら「うわあああ」って叫ぼう。ぼく、二時間くらい「うわあああ」っていってますよ。

*1:妹との姉妹げんかは本当に最高!どっちもいい性格してる。