赤い天使(1966)

赤い天使

赤い天使 [DVD]

赤い天使 [DVD]

 昨年観た『盲獣』があんまり面白かったんで、もっともっと観たいと思った増村保造監督作品。どうやら代表作はこれということで、買ってみましたDVD。特典あんまりなくて5000円弱ですか、高いねえ。でも、面白かったですよ。
 増村監督と若尾文子のコンビは有名で、このコンビだけで20本くらい映画を撮ってるらしいんだけど、確かに若尾文子の凛とした面持ち、極限下での緊張感、娼婦にも天使にも見える演技力は、監督がほれ込むのも無理はない気がします。『盲獣』の緑魔子もすごかったけど、彼女は天使に見えない。

■ストーリー
 時は昭和十四年、日中戦争のさなか。西さくら(若尾文子)は従軍看護婦として天津に赴任する。内地に比べると人手も薬も時間も足りない戦地では、患者は治療を受ける前に死ぬもの、治療の最中に死ぬもの、治療を受けてから死ぬものが圧倒的に多い。そして患者は女に飢えているため獰猛だ。西はここで男たちの呻きと看護婦への情欲を目の当たりにする。
 転属した西はけが人の患部をすばやい判断で次々と切っていくことで、「切りっぷりがいい」と評判の岡部軍医(芦田伸介)と出会う。不眠不休で地獄の惨状に立ち向かう岡部はモルヒネを打つことで正気を保っていた。
 天津に戻った西は岡部に両腕を切断された折原一等兵(川津裕介)に出会う。折原と接するうちに、西は両腕のない折原の苦しみに迫ることになる。
 西は再び転属し、岡部軍医と再会する。男たちの血の海の中を歩んできた西は、ついに岡部の苦しみを知ることになる。岡部は危険な最前線に出向くことになるが、西は同行を志願。岡部に惹かれていることを告白。
 着いた先は、病院というより戦地。敵に囲まれ、病気が蔓延し、軍医はモルヒネの禁断症状に苦しむ、絶体絶命の状況下、物語はクライマックスを迎える!

 西はあっちこっち病院を渡り歩いているんですが、それぞれ西とつながりの出てくる男は一人ずつ。西が病院を移るたび、前の男のつながりから新しい人間関係が生じるのはわかりやすくていいですね。中でも軸になるのは当然、岡部軍医。威厳と貫禄の中に苦悩を見せる男。「中年」が「壮年」であったころの、カッコいい大人ですね。
 男達を救おうと、身も心も差し出す主人公なんですが、いつしか立場は西に逆転し、男達は破滅していくというのは増村さんの真骨頂。「西が勝ちました」というセリフは震えがくるほどかっこいい。ここでも西には魔性を微塵も感じさせず、月並みな展開に落とし込みません。彼女はあくまで天使であるために、耽美的な恐ろしいテンションが全編を支配できているんでしょう。
 主役の若尾文子が現場があまりにもグロテスクで一度も映画を見たことがないという映像の痛み、緊迫感は今見てもただ事ではありません。ビバ、増村保造!愛してるぜ!