カッコーの巣の上で(1975)

カッコーの巣の上で [DVD]

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■ストーリー
精神病人を装って刑務所で暴れまわっていた厄介者、マクマーフィー(ジャック・ニコルソン)は実際に精神病院で検査されることになった。ハーディング(ウィリアム・レッドフィールド)、エリス(マイケル・ベリーマン)*1、マルティーニ(ダニー・デビート)、テイバー(クリストファー・ロイド)ら愉快な仲間と暴れまわっていたが、何より鼻につくのはラチェッド婦長(ルイーズ・フレッチャー)の支配的態度。反抗のために暴れまわっていたマクマーフィーはやがて本格的に居心地の悪さを感じるようになっていく。

 あー、学校時代を思い出します。中学時代とかラチェッド婦長もマクマーフィーもいましたよ。正論を吐くけれど、とことん融通が利かなくて、人の話をきかない。義務教育時代は随分と女の先生にいびられてましたから、先生はものすごく苦手です。男の先生はぶん殴られて終わりだけど、女の先生はネチネチ口で精神的に追い詰めてくるから嫌いでしたね。
 福岡出身ですから、うさぎ跳び、廊下に立たされる、チョーク投げられる、物差しでたたかれるという漫画ではお馴染みのベタベタな罰はひと通りくらいました。今は体罰とか厳しいから絶対にできない体験ですね。ダメ生徒だったおかげで、ちょっと自慢になります。あ、福教連の影響か、広島の悪口もよく聞かされました(笑)。
 マクマーフィーみたいなカリスマはなかったけど、中学時代の初期までは不良はヒーローですよね。学校にバイクで乱入してきたり、出席簿焼いたり、体育会では学生服で出場し、おそるべき運動神経を披露したり...。中学後期から、徐々にやさぐれてきて、学校にも来なくなるわけですが。
 
 マクマーフィーの邪気のない悪がきっぷりが共感を呼びますね。患者はみんな子供っぽく描かれてるから学校を思い出したんでしょう。母親と子供という見方も出来ます。患者は個性派俳優がそろっているので、見事にキャラクター分けされてますね。「こいつはどんな奴だっけ」と困ることはないでしょう。ドク*2のキレてる目つきはいつ見てもいいですね。目をギラギラ見開いて一人で興奮しているんだけど何を見ているのかよくわからない。
 そして何といってもジャック・ニコルソン。マクマーフィーにガッチリはまってて、さすがの好演。はじめに院長と話すくだりで脱線して無駄話を続けるシーンがあり、奔放なマクマーフィー像を印象付けたところですが、あれは前部ニコルソンのアドリブだったらしいです。すげぇ。
 マクマーフィーは確かに厄介者だけど、徐々に病院側の暴力的支配が浮き出しになっていくくだりは非常にじっとりしてていやな気分になります*3。が、マクマーフィーの暴れっぷりは爽快だし、仲間との交流はドタバタしてて楽しいです。展開のバランスはいい感じ。
 
みんなは童貞で自分に自信のないエリスのスキットに涙するのだ!*4
 
以下、本作を見た後に気になったことを情報収集したメモです。
 ビートとかヒッピーとかよくわからない単語が出てきましたよ!ビート・ジェネレーションからヒッピー・ムーブメントへの過渡期を示したのが原作らしいです。原作が世に出たのは1962年。ベトナム戦争が本格化し、ヒッピー・ムーブメントが爆発するのが1965年だから、確かに過渡期ですね。
 ビートとは、1950年代にバロウズとか、アレン・ギンズバーグら作家を中心に広まった活動で、反社会的な表現活動や、運動を繰り広げたものらしいです。個人的な経験を直接的に表現するために薬、ジャズ、セックスを用いていたらしい*5。盛り上がったのはサンフランシスコとニューヨーク。コーヒーショップや書店が拠点になったらしい。
 ヒッピーは1960年代、白人中産階級の若者達が担い手。資本主義への反対、ユートピア思想、意識と感性の発達などが目的で、ビートよりは規模が拡大してますが、思想や運動は激しくないです。
 原作者のケン・キージーはメリー・プランクスターズという集団を結成しており、映画そのままに、スクールバスに仲間を詰め込んで、各地で暴れまわったらしいです。本物のプランクスターズはバスに薬と演奏機材をぶち込み、踊るわ歌うわで滅茶苦茶やっていたらしい。
 以上のことはid:buntaがかなり詳しいと思うので、ツッコミや補足あったらよろ。
 
 映画化には紆余曲折があって13年かかりました。最初のプロデューサー、カーク・ダグラスは映画化に動こうと、監督のミロス・フォアマンに原作を送付。しかし、原作がなぜか監督の手に届くことはなく、ケン・キージーから原作と視点が違うと訴えられ、映画スタジオはそっぽを向き、断念。その後、カーク・ダグラスは息子マイケルに映画化権を譲渡。マイケルと製作者ソウル・ゼインツの仲介者がお互いに妙なことを吹き込み、ここでも交渉が長引く。マイケル、ゼインツ、フォアマンが結集するには相当な困難があったわけですね。
 「映画のラストを衝撃的にする主人公のロボトミー(精神病治療のための前部前頭葉切除)ですが、ロボトミー手術の全盛は50年前後。49年には考案者のモーニスがなんとノーベル賞を受賞しています。60年代から精神病に対して外科手術から薬物治療に向かい、映画が公開された75年には、ロボトミーはほとんど行われていません。ロボトミーに対する多くの批判と恐怖がまだ生々しい時代ですから、あのラストはショッキングだったでしょう。

*1:チャッキーの声の人、実は名優

*2:クリストファー・ロイド

*3:ラチェッドはいつも規則の堅守で患者達の社会適応能力が不足していることを自覚させており、患者の精神的なところまで支配しきっています。だから患者は自分から退院できない。うえぇ

*4:脱童貞した時、どもりが一瞬完璧に治っていたのは笑いました。童貞トラウマ恐るべし

*5:ここで昨日読んだ小説を思い出す。シナプスは知覚を濾過する作用があり、LSDはそれを開放するって文章(何を読んでいるんだ)。ホントかよ、なら確かにLSDを使うことで全てを知覚できるすごい経験が出来るな。嘘くせぇと思って、ちょいと調べたらLSDの効果は脳内物質セロトニンの分泌の抑制であり、セロトニンの作用は睡眠、摂食抑制らしい。だからLSDは逆に覚醒をもたらすわけだが、抑うつ症状や被害妄想ももたらすため、いまだに医学での治療法として確立せず、扱いは国連で全面禁止に