サルート・オブ・ザ・ジャガー

サルート・オブ・ザ・ジャガー [DVD]

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■ストーリー
時は荒廃した近未来。"ゲーム"と呼ばれるラグビーを荒々しくしたような競技に参加する者たちを描いたスポ根SF。主人公のサロウ(ルドガー・ハウアー)はかつて富と名声を得られる"リーグ"に所属していたトッププレイヤーであったが、大臣の妻*1と不倫したために"リーグ"から追われ、今は流浪のアマチュアに成り下がっていた。そんな彼に憧れて、チームに入った少女(ジョアン・チェン)を狂言回しにサロウの生き様を描く。


 渋いですねー。主演のルドガー・ハウアーは『ブレード・ランナー』でレプリカントのリーダーやってた人です。影のある男がよく似合う。セリフはほとんどないのに、存在感で演技します。実際の"ゲーム"のシーンでは、実はほとんど活躍することのない彼ですが、殴られて蹴られて、傷つくことによって神格化していく姿はロッキーを思わせます。打たれても打たれても陰ることのないハウアーの強い表情が生きてます。自分を捨てた過去と決着をつけるプロットは月並みですが、行き過ぎたハッピーエンドに落とさず、憂いや切なさを施したラストは作品に品格を与えています。
 
 監督は『ブレードランナー』で脚本を勤めたデビッド・ピープルズ*2。長編監督作はこれ一本だけで基本的に脚本畑の人です。脚本では、他に『12モンキーズ』『ソルジャー』などとやっぱり近未来荒廃SFものが多いです。
 本作もやっぱり近未来荒廃SFもの。『マッドマックス』の影響を語ってる人も多いですが、そんなに痛快でもないし、娯楽度は低いです。『ブレードランナー』の影を引きずってる印象が強いですね。コロシアムものだからバイオレントですが、基本的に敵が傷つくよりも、味方が傷つくシーンのほうがずっと多く、痛快さよりも、主人公一行の旅のつらさを共感する演出になってます。サロウと少女の物語が徐々に一つの目的に収斂していく脚本はよく出来てますが、落ち着いた渋いつくりであるために盛り上がり方は意外なほど静か。
 
 ここまで書くと、まるでアクションには見るべきところがないかのようですが、実際その通りで、アクションというか映像全体に不満。カメラが安いためか、暗いシーンだと顔の判別が非常に困難になります。"ゲーム"はラグビーのように、攻撃と守備にポジションが分かれているようですが、守備はボコボコ殴りあってるだけで、動きも重く面白くないです。カメラも近すぎ。攻撃は少女役のジョアン・チェン、がんばってますがさほど敏捷ではないです。クライマックスではグダグダなフランケン・シュタイナーを披露。
 男くさいマッチョな集団に殴りこむ少女というのはキビキビしてたり、勝気だったりしますが、このジョアン・チェン、容姿がボーイッシュなだけで非常になよなよしてるんですね。この女優さん、どこかで見たことあるなぁと思ったら、『ツイン・ピークス』で製材所を切り盛りしてた不幸そうな未亡人やってた人でしたね。あのドラマ、今見ても女優さんの容姿のレベルの高さがやばいのですが、なかでもジョアン・チェンはなよなよしてて弱弱しくて大昔のアイドルを思わせる印象の強さでよく覚えてます。他の男が血しぶき飛ばしたり、骨を折ったりしてる中、競技にノコノコでてきたときは「おいおい、お前が出るのかよ」と目を疑いました。独りだけ飛びぬけて線が細く、背も小さいです。本作でもわきを締めて手開いてペンギン歩きしてたときは、あまりの軟弱っぷりにハラハラしました。変わってませんねー。
 
 映画の出来としてはそんなに良くはないと思いますが、江角マキコ主演でパロディCMが作られたくらいだから評価されるツボがあるんでしょう。ちょっと渋すぎで『マッドマックス』を期待すると裏切られます。噂のパロディCMというやつを見てみたいですねぇ。

*1:これが明らかに道を間違ったと思われるほどの変態

*2:ギリアム、イーストウッド、コッポラ、リドリー・スコットと作家性の強い監督と組むことも多いですね