新たな時をひらくか 生き残る哀戦士たち

ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記より

 どうやら今アメリカでとんでもない映画が公開され、しかも大人気らしい。その名も"The 40 Year-Old Virgin"。もうポスターだけでインパクト抜群なんだが、タイトルもおそろしく終末的だ*1。若干焦りはあるが20代はまだまだ余裕。しかし、40になるとさすがにやばい。何かがおかしい。心の弱いチェリーなら何人か首くくれそうなくらいまずい状況だ。主人公の特徴が「仕事ができて、人がよくて、まじめ」でも、「ダサくて体毛濃くてフィギュアマニア」という設定がリアリティありすぎ。傑作童貞映画として評価している『タクシードライバー』『シュラム』以来の素晴らしい悪夢を見せてくれそうだ。日本も『電車男』観て喜んでいる場合じゃない。もてないオタという現実を正面からとらえている分、ハリウッドのほうが生々しいし親しみがもてるぞ(いや、ハリウッドでこんな映画が撮られたという時点で何かおかしいかもしれない…)。
 公開初日は興行成績デイリーチャート堂々の一位。40歳の童貞おそるべし。もてない人間が共感を得るために劇場に行くのはわかるが、そうでもない人は何を見に行ってるのだろうか。「キモイ、キモーイ、キャハハハハ」と哂いにいっているのだろうか。そうなるとid:buntaではないが、「死ね、死ね。みんな死ね」という気分になってくる。TBSラジオ・ストリームも聞いてみたけど、アメリカではカップル達がチケットを巡って争奪戦を繰り広げるほどの狂騒らしい。ギャー!
 本作しかり、『電車男』しかり、もてない男の注目度や自己表現は最近異常な盛り上がりをみせているように見える。日本だけの現象かと思いきやいきなりハリウッドでズドンと映画が出てきたのは想定外だった。
 ラジオは今回も非常に興味深い内容で「サロゲート・パートナー」という中年童貞専門のセラピストが紹介されていた。いまや中年童貞の悲劇は日本やアメリカだけではなく世界規模で進行しているらしい。戦前の村社会ではどんなダメ男でも筆おろしをしてくれる後家さんがいたものだが、恋愛自由競争社会となった今、競争に落ちこぼれた哀戦士達が女性に対する苦手意識を持ったまま40になっても童貞だったり独身だったりするのだ。童貞だけならまだしも、コンプレックスを持っているので男友達の下ネタ話や恋愛話についていけず、どんどん孤立していくらしい。怖いなー。もてないことがここまで深刻な症状に悪化するとは。下ネタ、恋ばなについていけないって俺のことじゃねーか!まずい。他人事ではないのかもしれん。40になって金払って病院でセラピストに筆おろししてもらうなんて悪夢の極みだと思ってしまうが、当人は必死なんだろうな。患者(なんておそろしい響き!)の心を開くのは本当に大変で目を合わせたり、触ったりするだけで逃げてしまうらしい。ギャー!コメディなのに映画見たら泣くかも。
 いつ日本公開されるのか知らないが、こいつは試写会が面白そうだ。みうらじゅん氏がでてきてDT話を繰り広げるに違いない。ネットや雑誌を駆使して何とか試写会のチケットを手に入れよう。
 あー、今年もクリスマスには男同士の「シングル・ヘル/Single Hell」に参加できそうですよ。
I pray, pray to bring near the New Day...

*1:ちなみに英語だと男でも女でもVirginなのね