血と骨

血と骨 コレクターズ・エディション [DVD]

■ストーリー
大正時代、朝鮮から岸和田に裸一貫で乗り込んだ移民がいた。名前は金俊平(北野武)。破壊欲と独占欲、性欲に溢れた怪物で周囲のものを恐怖の元に支配していた。かまぼこ工場を立ち上げ、財を成す成金にまでなるが、金俊平の力と欲によって律せられた家庭は崩壊へと突き進んでいく。

 非常に疲れる映画でした。主人公の鬼畜っぷりは数ある映画の中でもトップクラスでしょう。『愛を請う人』でも暴力(と愛)がテーマになっており、これでもか、これでもかと観客の心を沈ませるエピソードが並んでいましたが、本作はかなりパワーアップというか凄惨なものになってます。前半こそエピソードにつながりがなく単品で並べられている感じでテンポが悪く、盛り上がりに欠けましたが、主人公金俊平の子供が成長し、父親と葛藤を始めるあたりから話の流れはスムーズになり、ぐいぐい引き込まれていきましたよ。
 北野武を初めとした出演陣の演技力には感動しました。みんな目が据わってるし、画面には緊張感が絶えません。つねに観客にプレッシャーを与えてきます。ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』も全編に妙な緊張感が満ちていましたが、本作の崔洋一監督もフリードキンのようにスタッフの中で恐怖政治を敷いたんでしょうか。背景で子供が遊んでいたりするんですが、子供達が妙に一生懸命で気迫を感じたのも崔監督のとったスタンスの影響なんでしょうね。
 基本的に暴力のシーンが多くて、金俊平がビシバシぶん殴るシーンはどれも妙に不器用で生々しくて痛いんですが、洗練されたアクションにはない高揚感があります。金俊平の暴力はエゴイスティックで基本的に不快極まりないんですが、暴力を振るわれている周囲の人間と一体化させる効果的な方法だと思います。金俊平が暴力を振るえば振るうほど、観客も金俊平の地獄に引き込まれていくのです。
 本作品では他人を従わせる暴力を直接的にも暗喩的にも示していましたが、あまりにも伝え方が力強すぎて万人に勧められるものではないかもしれません。素直な人はある種のトラウマになってしまい暴力に対して反吐が出るくらいの嫌悪感をもつかもしれませんし、あざとい演出に引いてしまう人もいるかもしれません。「暴力の連鎖を強調するために『2001年宇宙の旅』のパロディをラストにやったのは、ちょっと下品。もともとあざとい上に小手先の技術と教養を見せつけられたようなんです...。
 後半の「力を失っていく怪物」というのもありがちな展開ではありますが、僕は好きですね。ここで表現されるのは「むなしさ」でしょうが、同時に「滅びるものの美しさ」を表現できた綺麗な演出だったと思います。欲を言えば「最後までぬけぬけと生き残り、ぬくぬく生きる金俊平」を見せて、監督の悪意を感じたかったんですが、流石に綺麗に収められた感じです。崔監督は前衛的な作家でもオタクでもなく、観客のアドレナリンを放出させまくるエンターテイナーに近い感じなのでラストを美しく飾るのは納得できます。
 
 あと、気になった点は……予告で登場してた鈴木京香オダギリジョーも出番は少なかった。でも存在感はありましたね。てか、普通に二人とも上手い。中村優子って人は体張ってたけど、あまり演技させてもらえてなくてすごくかわいそうでしたね。