宇宙戦争

宇宙戦争 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

宇宙戦争 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

 見てきましたよー。トム・クルーズスピルバーグの豪華絢爛ハリウッドパニック。パニック映画っていうのはじゃんじゃか金かけて観客の度肝を抜いてくれ!って思いがあります。だからハリウッドにはもっともっとパニック映画を作ってほしかった。そこへ来てSFの古典、宇宙戦争の来訪ですよ。攻めてくる宇宙船がイカだと知ってたので、ついでにオチも知ってたのであまり期待はしてなかったんですが、パニックといっては観ずにはいられないわけです。それに基本的に宇宙人が攻めてくるだけという今どき単純にもほどがあるストーリーをスピルバーグがどこまで面白くできるかというのも興味がありました。
■ストーリー
 宇宙人が攻めてくる!逃ゲロ!
 気持ちがいいほど単純ですね。メインのあらすじをここまでキッパリ明快にやってくれるスピルバーグの肝っ玉を僕は買うぞう。
 一応主人公たちのサブ・ストーリーもあります。主人公レイ(トム・クルーズ)はわがままでだらしがなく、子供たちにも愛想をつかされるダメ親父。ハリウッドでは珍しいバリバリの肉体労働者であります。妻は三人目の子供を身ごもったため、実家に里帰り。レイは子供2人を一人で預かることになります。そこへ来て宇宙人来襲。何の特殊能力も持たないし、頭も悪いレイは子供を守りきれるのか。長男は反抗期真っ只中で親父のいうことは全然聞かず、宇宙人に喧嘩売ろうとしてはレイの足を引っ張りまわします。娘のレイチェル(ダコタ・ファニング)は本作のスクリーミングクィーン。彼女のパニックをあやすすべも、いつも聞いてる子守唄もダメ親父は知らないのでした。地球全土が宇宙人によって戦火に染まった今、逃げる場所もないレイは家族を連れて妻の元に駆けつけようとするのでした。
 
 登場人物が少ないのがいいですね。逃げて逃げて逃げまくるだけですから余計な人間ドラマとか邪魔です。これでもか、これでもかとレイのダメっぷりを見せ付けて、観客をトム視点にひきつけてからは阿鼻叫喚の地獄絵図にレイと一緒に頭を抱え込むのみです。バカ息子と娘の心情描写は短いですが、見所を作るのもスピルバーグの上手さでしょう。
 そして、本作最大の見所は大王イカテトラポッドの迫力に尽きるでしょう。この迫力は想定外だった。特に登場シーンは圧巻。CGとセットとエキストラの限りを尽くして作られた非常にしつっこい、なが〜いシーンです。よくぞここまでネチネチやってくれた。ハリウッド万歳!咆哮と共に出現するテトラポッドのカッコいいこと。ビルのようにでかいモンスターですね。俯瞰せずあくまでトム視点で巨大さをキープするカメラアングルもよし。どこに逃げても追ってくる怪光線の怖いこと怖いこと。一人でパニックに陥ってトム・クルーズと一緒に逃げてたもんね。全ての電気機器が止まってるのに一個だけ自然に動いてるハンディカムなんて気にしないんだよォォォ!
 鼓膜に優しくない音楽と巨大スクリーンによって引き起こされる迫力が全ての映画です。これは映画館で観ないと意味がない。DVDで見たら多分観想変わってたでしょう。メチャクチャ面白いパニック映画なんで是非とも劇場で見てください。
 
■以下、本筋とはずれた話です。気になった点に関するコメント。ここでもネタバレなしです。
 スピルバーグほど大物になると観客のクレームに気を使うのか、死体のシーンがほとんどなかったり、軍隊がやたらと出てきて、しかもテトラポッドには無力なはずなのにやられるシーンが全くないと、制限を受けているのが露骨に表れていますが、克服されているように見えます。画像はとことん清潔なんですが、死臭や終末観はきちんと示されています。宇宙人が地上に植えている宇宙植物は人間の血管を連想させるデザインになっており、制圧された区域はさながら血だらけの地獄絵図ですし、軍隊のいた区域から大量の炎と共に浮かび上がるテトラポッドは人類の無力さを表現できています。
 あまりにもあっけなくてできすぎているラストに関しても許容範囲です。「よーし!やるだけやった。あとはどうでもいいや」って感じで。僕もこの映画で見たいものは見たって感じだったのでラストはあっさり終わってよかったと思います。人間ドラマは別にいらんですたい。原作のオチを知らない人はちょっと拍子抜けくらうかもしれませんね。原作知ってるとオープニングでオチがわかります。
 ダコタ・ファニングはよかったですね。心なしか顔つきが不安定になった感じです。叫ぶと顔が崩れてみてるこっちは二度怖いわけ。立派なスクリーミング・クィーンっぷりでした。次はバイオの新作にでてよ。
 
 そして、多分本作で問題となるのはティム・ロビンス編でしょう。映画見たときは気にならなかったけどmovieholicの指摘により確かに本作を評価する上でキーになりそうな気がします。許せるか、許せないかでしょうが、僕としては許容範囲です。以下、ネタばれつきティム・ロビンス編のレビューに移行しますので、既に鑑賞した人だけどーぞ。
 前半とあまりに違う展開に戸惑うのではないかという問題ですね。
 まず、それまでが緊張の連続でとても耐えられなかったというのが正直な感想です。少なくとも僕は映画の中に入り込んでしまってテトラポッドにビビリまくってました。ライトも怪光線も怖い怖い。テトラポッドの大量殺戮から逃げ切ってティム・ロビンスの小屋でレイチェル(ダコタ)に子守唄歌ってるシーンでもまだドキドキしてたもんね。クールダウンするいい時間でした(その後対してオットロしいシーンがなかったのは問題ですが)。
 あと、好意的な解釈もできて、宇宙人が来襲した後の廃墟の恐怖を表現できていたのではないかというものです。序盤で稲妻が同じところに落ちるというのが暗示になっていて、僕も一度宇宙人が掃討したあとの場所は安全じゃないのかと思ってたんですね。しかし、宇宙人が掃討した後の廃墟は宇宙植物の栽培地であり、地球文明を探る調査地であり、宇宙人の監視は引き続き続行されるわけです。天然の稲妻と違い、宇宙人は同じところに何度もやってくるぞと。立てこもり隠れまわる恐怖の描写は密閉された空間で隠れまわる緊迫感と人間同士の対立というお約束の表現が展開されましたね。

■お気に入りシーン:火達磨列車、宇宙植物に侵食された赤い大地、そして何よりもすばらしいのはテトラポッド登場