スーパースター100人を語る!

第4回ミック・フォーリー

WWE ミック・フォーリー グレイテスト・ヒッツ [DVD]
 この人はレジェンドレスラーですねぇ。レジェンドは10回とか20回とかキリのいい回で語ろうかなと思ってたのですが、予告してしまったし変えるのも面倒だ。
 まず、当たり障りのない解説を僕風にさらっと流してみます。ECW全盛期からWWFアティチュード時代に人気を得たスーパースター。リングネームはハードコアスタイルを好む残虐な"カクタス・ジャック"、多くのトラウマを抱え、シバきあいで精神の安定を得る狂気の"マンカインド"、そして陽気な"デュード・ラブ"の三種類を擁します。デュードの出番はさほど多くなかった気が...。
 レジェンドと言われるだけあって多彩で際立った才能を持ちます。カクタス、マンカインド時の狂気のマイクは本当に鬼気迫るものでした。わめいたり、いきがったりするタイプじゃなくて、心の痛みを叫ぶような独特のセリフと声を発します。ミックの特集DVDに納められたアンチ・ハードコア宣言はやはり名作。こないだバックラッシュ2004にてランディー・オートンと抗争をやってましたが、マイクは全然衰えていなかったですね。個人的にはロック、ストンコに次いでミックのマイクは好きです。
Have a Nice Day! a Tale of Blood and Sweatsocks
 ミックの人間的な魅力も多くの人をひきつけていますね。ミックの自伝は全米売り上げ一位になるほどの人気を博しました。これはミックのレスリングスタイルとキャリアが注目を浴びたのもあるでしょうが、なによりミックの人柄がにじみ出ていたのが多くの人に好まれた原因だと思います。映画「ビヨンド・ザ・マット」でもミックの人間的な魅力について語られていますね。人懐っこいし、感情を表現するのが上手い。ユーモアのセンスもあるし、頭もいい。ファンの間でも悪い評判ってのはでてきませんね。
 さて、本業のプロレスリングです。ミック自身もいってますが、受身の人ですね。とにかく相手のきびしー攻撃を受けて受けて受けまくる。攻撃もミスって激しく自爆する。Bang!Bang!ってところがミックのプロレスの魅力でしょうか。実際ダブルアームDDTとかの攻撃ムーブよりもテーブルに沈んだり、トップロープからコンクリートの床に自殺ダイブしたり、画鋲の海にダイブする印象のほうが強いです。受身が派手なのでわかりやすく、幅広いファンを集めてますね。
 受身のすばらしさでレジェンドにまで登りつめたスーパースターならもう一人います。"ネイチャーボーイ"リック・フレアー御大ですね。HBKもHHHも受身の人なんですが、ミックとフレアーは受身をとればとるほど彼らの世界観に引き込まれてしまう強烈なオーラと個性をもっている気がします。もっといってしまうとHBKとHHHの受身は相手を立てますが、ミックとフレアーは相手を殺しかねない攻撃的な受身ではありませんか?攻撃を受けているのに視線と声援、そして興奮をわしづかみにする瞬間を二人はたくさん持っていますよね。
 フレアーとミックの仲が悪いのは有名ですね。お互いの自伝やインタビューでも攻撃的な言説が取りざたされます。僕としては同じ受身職人同士が対立しあう構図がすごく気になるわけですよ。二人の対立部分でもミックの受身の評価が焦点になっている感があります。フレアーのプロレススタイルや受身スタイルを見ると、ミックの受身を否定したくなるのもむべなるかなと類推されます。
 無謀さと残虐さが評価されるハードコアレスリングは選手寿命を縮めるし、プロレスがさして上手くない選手を大量輩出させてしまったという点で批判されてしまいます。
 フレアーはNWAがアメリカマットを席巻していた時代から活躍していたクラシカルなレスラーですから、とにかく危険な受身をとりまくるミックは否定したくなって当然でしょう。無謀さや危険さはこれまで受身ではさほど求められていなかった価値観ですから。そして無謀さや危険さを押し出した受身は相手を強くみせたり、技の説得力を表現したりする受身よいもずっと分かりやすいし、とっつきやすい。既存の価値観が殺されかねない危機感を覚えたのではないでしょうか。また、ハードコアプロレス台頭時のフレアーは責任あるブッカー職(現場責任者)を担当していたわけですから、才能あるレスラーたちがハードコアプロレスで選手寿命を縮めることを危惧したという理由もあるでしょう。
 僕は凄惨なだけのハードコアプロレスは好きではありませんが、やっぱりミックやサブーの激しいプロレスを見ると心が震えます。才能あるレスラーたちが繰り広げるハードコアは激しいムーブが緊張で張り詰めた風船を針で突き刺すような鋭さと流れのよさを持っています。しかし、実際ハードコアレスラーの選手寿命は短いし、レスリングムーブがさほど上手くない人でも十二分に魅せる試合を作り得ます。プロレス業界の発展のため、スターの選手寿命を縮めず、レスリングを尊重するためにはハードコアプロレスはどうしてもメインストリームから外れざるをえないでしょう。メジャーのWWFWCWがわりと保守で、中間的な位置づけであったECWが両メジャーに影響を与えるという構図は(プロレス産業にとって)とても健全な状態だったと思います。(結果としてWWFアティチュードはとても保守とはいえない状態まで変化を遂げたわけですが...。)いまのWWEって、ちょ〜っと保守すぎませんか?影響力のあるハードコア団体の再来を待望です!