アバウト・シュミット

アバウト・シュミット [DVD]
 ジャック・ニコルソンが顔芸していただけの宣伝で、どんなストーリーなのかさっぱりわからなかった映画です。前知識ほぼゼロで映画に挑むのは久しぶりですね。途中までどんな映画なのかわからずわくわくするって感覚はよかったです。テーマは孤独ですね。それに主人公のエゴといった人間臭い要素を加えてユーモアな雰囲気に包まれています。わがままで怒りっぽくて気持ちの変化の激しすぎる主人公にはすぐに感情移入してしまうことでしょう。
 ストーリーはあまり激しい展開はなく、抑えています。結婚式でのスピーチなんかいい例ですね。全体的に静かな雰囲気ですから、ラストシーンのささやかな感動が生きてきます。あと、ニコルソンの抑えた演技にも注目です。チャイナタウンやシャイニング観てると、不敵な笑顔を浮かべた野蛮な人間という印象がありますが、今回は非常に人間臭いシュミットというオジさんを演じているのでニコルソンの役者としての本領を伺えます。俳優では最多のアカデミー賞受賞者ですから、やっぱり上手いですよ。映画『ミザリー』の怖いオバハンも出演しています。いや、さすがにオーラでてるわ。
 僕はストーリー等の事前の知識なしで楽しめましたから、ここでも敢えてストーリーの説明は一切しません。人間臭いオジさんの笑って泣ける静かなドラマです。
 以下はネタばれにつき、伏字

 ラストシーンの解釈について。なぜシュミットは泣いて笑ったのか。手紙の大部分は愚痴と自嘲によって構成されていたわけですが、やっときた返事には絵が一枚。しかも少年は六歳で読み書きすらできないとのこと。おそらくシスターが朗読しても内容の理解は難しいでしょう(内容はほとんど独り言だし!)。しかし、少年の描いた絵はシュミットと少年の絆でした。少年はシュミットのことが理解できないなりにシュミットへの好意を示したわけです。(手紙の内容が理解できていたら、シュミットはさらに哀れでしょう。)そこでシュミットは気付くのです。ツッパってわがままで他人への誠意のない自分がなぜ孤独に陥るのか。結婚式でのスピーチのように上っ面の誠意と少年のささやかながら真実の誠意が対照に写って、自分がすごく哀れに思えて、こっけいに思えて笑って泣いたのだと思います。
 人間誰しもわがままで自己中心的なところがあるので、シュミットの生き方を見ても、なかなか自分の生き方を直すことはできないかもしれません。シュミットと見る人の類似点が多ければ多いほど残酷な映画です。シュミットは自身の哀れさに気付いても失ったものは取り戻すことが出来ません。シュミットは老人ですから性格や生活を変えることもひどく困難でしょう。その点でとても救いのない映画なのです。シュミットに将来の自身を見て笑って泣いていることに気付き、ちょっとぞっとするかもしれません。